第三章 妹と目利きと名もなき鳥 7
「麗羅ー!俊輔さーん!」
ドアを勢いよく開いて万里が入ってきた。
「万里、みんなが驚くだろう」
「そうだよ、万里。注目浴びちゃった」
注意する麗羅と、恥ずかしそうにする玲花。
「いいの!行こうよ俊輔さん!」
「はい、お待たせしました」
万里が叫ぶと麗羅の後ろから俊輔と修が現れた。
「くそ!俺も部活がなかったら行くのになー!」
「あ、市川君。部活なんだ?頑張ってね」
玲花がにっこり笑うと修も笑い返した。
「じゃあ頑張ってね、しゅー君!」
「しゅー君!なんか新鮮な響きだな!」
「市川は基本的に市川としか呼ばれませんよね」
「そうなんだよ!」
「では、私たちは帰ります。頑張って下さいね、市川さん」
「ありがとうみんな!」
修と別れて、四人は歩き出した。
「端から見たら俊輔さんはすごく変な立場だよね。ハーレムじゃん!」
「そうですね。でも、すぐにそうではなくなりますよ」
「玲花ちゃん、少しある人のところに寄っても平気ですか?」
「うん、大丈夫だよ」
「あ、もしかして流夏さん?」
「ルカ?」
万里は顔を輝かせ、玲花は首を傾げた。
「俺と麗羅の友人……いえ、知り合いです」
「言い直さなくても友人だと思うのですが」
「だそうですよ。よかったですね、流夏」
側の木を見上げて俊輔が言うと、木の葉が揺れて、一同の前に流夏が降り立った。
「何故ここにいるとわかった」
「あなたの行動パターンくらいわかりますよ」
「恐ろしいヤツめ」
「流夏さん!?」
俊輔の背後から万里が飛び出して声を掛けた。
「は?れ、麗羅?なんか、雰囲気が……」
混乱している流夏に万里はにっこり笑いかけた。
「こんにちは!」
「なっ!?」
思わず赤くなる流夏。すると俊輔がクスクスと笑い出した。
「あまり笑うな、万里。私とお前は同じ顔なんだから」
「麗、羅……?」
万里の後ろから現れた麗羅にますます混乱する流夏。麗羅は申し訳なさそうに目を伏せた。
「すみません、流夏さん。コイツは、私の双子の妹の万里です」
「初めまして!」
「双子……」
そう聞いて流夏は思わずため息をつく。そして俊輔を睨み付けた。
「いつまでも笑ってんじゃねぇよ!」
「いえ、あまりに反応がおもしろかったので」
「そんなことより、私と麗羅は同じ顔じゃないよ!麗羅のほうが可愛いよ!」
「私とお前は双子なんだから同じだろう」
「でも、性格かな?結構違うよね」
急に入ってきた玲花に流夏は不思議そうにする。
「あ、あなたが流夏君?姫野玲花です。初めまして」
「姫野?お前、もしかして」
「続きは俺の家でしましょう。流夏も来て下さい」
「あ、ああ」
話を遮られた流夏は怪訝そうに眉間に皺を寄せた。
「それにしても、流夏さんがイメージと違ったなぁ。ちょっと怖いくらいのイメージだったのに」
「笹間君のお友達って言うからどんな人なのかなって思ってたんだけど」
「なんか、流夏さんって可愛いね!」
「可愛くねぇ!」
「おや、よかったですね」
「よくねぇよ!」
そう叫びながら流夏が角を曲がった時、人とぶつかった。
「あ、ごめんなさい。あれ、流夏か?」
流夏が顔をあげると、はっとするほど綺麗な男が立っていた。
「お前」
流夏はその男を見ると顔を引きつらせた。
「流夏さんズルい!そんなカッコいい人とぶつかるなんて!」
「そうじゃないだろ。流夏さんのお知り合いですか?」
男は麗羅達を見回して、ある人物を見つけると笑った。
「俊輔」
それに対して俊輔は呆れたように額に手をあて、ため息をついた。
「こんな時間に何してるんですか、父さん」
それを聞いた万里が叫ぶ。
「父さん!?」
「笹間君の、お父さん?」
「なるほどね!道理でいい男だと思ったよ」
うんうん、と頷く万里に麗羅と玲花も控えめに頷いた。
「俊輔と流夏のお友達?あ、麗羅ちゃんは家にいるところを見たな。初めまして、笹間陸だ」
よろしく、と陸が笑う。
俊輔同様綺麗な笑みだが、何故かその笑顔は俊輔と似ていなかった。