第三章 妹と目利きと名もなき鳥 10
朝早く。麗羅と万里が剣を近くに置いてのんびりと二人が来るのを待っていた時だった。
家のチャイムが鳴り、万里が扉を開ける。
「あ、万里。よかった、ここであってた」
そこにいたのは茶色の髪を一つに結んだ少女だった。
「あれ?玲花、おはよう」
「おはよう。あのね、万里。昨日、私の家に能力者の人が来たの」
「玲花のとこにも?」
「やっぱり、万里のとこにも来たんだね」
「来たよ。私を狙ってる集団なんだけど」
「玲花ちゃんも狙われたとなると、彼女も必然的に巻き込まれたことになりますね」
「そんな……ごめんね、玲花」
麗羅の言葉に万里が申し訳なさそうにうつむく。
「大丈夫だよ、万里」
「え?」
万里が顔を上げると、玲花が懐から短刀を出した。麗羅と万里はギョッとする。
「私は有名な目利きの家系だよ?能力者に狙われるのは初めてだったけど、戦うのは初めてじゃないの」
「まさか、行くつもりですか?」
「ダメだよ!」
「いや、来いよ」
三人が振り返るといつの間にか流夏と俊輔がいた。
「いいと思いますよ。これからも姫野さんが万里と友人でいたいなら、来るべきです」
「行こうぜ、姫野」
「流夏さんはともかく、俊輔さんまで!」
「そうだな。玲花ちゃんと一緒にいるためだ。本人が戦えるなら、いいんじゃないか?」
「そいつ、昨晩のヤツを追い払ったんだろ?十分だ」
「私も、戦えるよ。連れてって、万里」
四人に言われて万里はため息をついた。
「麗羅までそんなこと言うなんてね。わかった。一緒に来て、玲花」
「うん!ありがとう!」
「お礼を言うとこじゃないでしょ!もう!」
「ごめんね?」
「謝るとこでもないの!」
「ククッ」
その声に全員が驚いて振り向く。ハッとして流夏が口元を押さえた。
「流夏さんが笑った!」
「私、初めて見ました」
「流夏君、可愛いね」
「可愛いですよ、る・か・く・ん」
「お前らうるせぇんだよ!行くぞ!」
流夏は少し顔を赤くすると、先頭を歩いて行ってしまった。そのあとを玲花が慌てて追いかけた。
「流夏君、ありがとう」
「何がだ?」
「最初に『来いよ』って、流夏君が言ってくれたでしょ?ありがとう」
「別にお前のためじゃねぇよ」
「でも、ありがとう!」
玲花がニッコリ笑うと流夏は少し顔を赤らめてさらに歩く速度を速めた。
「あ、流夏君!」
「うるせぇ!お前、何も言うんじゃねぇ!」
「ええっ!」
そんな二人を後ろから見て、俊輔と万里はクスクス笑った。
「姫野さん、流夏は素直にお礼を言われることに慣れてないんですよ」
「そっか。嫌われたわけじゃないんだね」
「なるほど!流夏さんは照れ屋なんだね!」
「ああ、確かにそうなのかもしれないな」
「麗羅まで勝手なこと言ってんじゃねぇ!」
「おや、聞こえてましたか?」
「白々しいんだよ!」
「みんな、いい人だね」
そんなやり取りに万里が嬉しそうに笑う。
「ところで、玲花ちゃんは本当に大丈夫ですか?」
「麗羅もプッシュしといて今さらだね?」
「うん、大丈夫だよ」
「いざとなったら流夏を盾にして構いませんよ」
「え!」
「あはは!丈夫そうだしいいんじゃない?」
「お前ら……!」
「流夏君、よろしくね」
「お前、ホントに盾にするつもりなのか!?」
叫ぶ流夏とクスクス笑う三人。そんな四人に麗羅が呟いた。
「あの、どこへ向かってるんですか?」
その言葉に全員が万里を見た。
「え?流夏さんが行くからなんとなくついて来ただけだよ」
「ふざけるな!」
「どんどん進んだのは流夏さんじゃない!」
「万里、流夏さんも落ち着いて下さい」
その状況に俊輔はおもしろそうに笑い、玲花がうろたえた。
「こちらで合ってますよ」
そう言ったのは俊輔だった。
「麗羅には以前言いましたよね?ある程度の情報収集なら俺も出来ると」
「すごーい!俊輔さん!」
「誰も考えてなさそうだったのでやっておいたんですよ」
その言葉に全員少し黙った。本当に考えていなかったのだ。
「それにしても、中心である万里までわからないんですね」
「あー……ごめん」
万里は少し恥ずかしいらしく、顔を反らした。
「では、行きましょうか」
「わかってたなら、早く言いやがれ!」
歩き出した俊輔に、流夏が後ろから軽くチョップした。