第三章 妹と目利きと名もなき鳥 11
「すっごいお屋敷」
万里がぽかんと口を開けたまま屋敷を見上げた。
「ここなんですか?」
「そのようです」
「大方、能力を盗みにでも使ってんだろ」
「そんな!」
確かに今は使われていないお屋敷は、隠れ家にピッタリだった。
「じゃあ行くよ、みんな!準備はいい?」
「仕切ってんじゃねぇ!」
「流夏はやる気満々のようですよ」
「ああ、大丈夫だ」
「行こう!」
玲花の言葉で万里は扉を開けた。
「綾刀万里様、参上!」
「どういうノリだバカ」
「うるさいよチビ侍!」
「ふっ……」
「笑うな俊輔!」
賑やかに屋敷に侵入した五人。
「早く出て来なさい!私たちも暇じゃないの!」
「まあ、一名はわかりませんけどね」
「うるせぇよ!」
「おや、流夏とは言ってないのですが」
あまりに賑やかだったのであちこちに隠れていた敵が出てきた。
「自分から来るなんていい度胸だな」
リーダーらしい男が言った。
「待ち構えられていたようですよ」
「扉に鍵がかかっていませんでしたしね」
敵に囲まれてるのに冷静な麗羅と俊輔。
「来るぞ」
流夏が剣を抜いたその横を短刀二つを持った茶髪の少女が駆け抜けた。
「姫野!?」
「いっくよー!」
突然のことに麗羅たちは呆然と立ち尽くす。その好機を逃してはいけないと、リーダーらしい男は殺れ、と指示を出した。
「おっと。危ないですね」
俊輔を目掛けて後ろから振り下ろされた剣は、突然地面から生えてきた植物に遮られた。
俊輔は眼鏡をとり、薙刀を構え、綺麗に微笑んだ。
「俺は手加減は出来ませんからね」
「あいつ、まさか……!」
その様子を見てリーダーらしい男は呟いた。
一方、流夏も不意討ちだった相手の攻撃をかわし、返り討ちにし、そのまま一気に側にいた三人を斬った。。
「なんだ。そんなものなのか?」
敵の中に勢いよく突っ込んでいった玲花は、短刀を華麗に操り、次々と相手を戦闘不能にしていた。
「玲花、強いじゃん!」
そう言った万里も、後ろからの攻撃を軽く剣で受け止めて弾き返した。そして振り返ってニッコリと笑った。
あ
「バイバイ」
万里が指を鳴らすと、万里の視界の範囲内が爆発した。それを見て流夏と俊輔は驚いた。
「おい、あいつなんだ?」
「能力を使いつつ、剣をあそこまで扱えるとは。規格外の強さですね」
そんな二人の台詞に、玲花も遠くから反応する。
「万里はすごいんだよ!」
「それより万里、やり過ぎるなよ」
「わかってるって!」
麗羅も素早い動きでどんどん相手を斬っていく。後ろから攻撃してきた敵は、風に刻まれた。
「生きていたのか!名もなき鳥!」
ほとんどの能力者が戦闘不能になった頃、リーダーらしい男が叫ぶ。
「何故、それを?」
俊輔が一瞬動きを止めた。
「バカ、俊輔!」
その隙に襲ってきた敵の剣を流夏が受け止めて弾き返した。
「ぼーっとしてんじゃねぇ!大したヤツらじゃなくても、今のは十分狙われるぞ!」
「すみません、流夏」
「気にしてる場合じゃねぇ。アイツ、地下のヤツか」
「しかも会ったことがあるらしいですね。そうでもなければ、戦いを見ただけではわからないでしょうから」
「誰かわかるか?」
「わかりません、よ!」
後ろから来た敵を薙ぎ払う俊輔。
「何かあるみたいだし、みんなあとは私に任せて!」
万里が手を残りの敵にかざす。
「万里、あまり規模が大きいのはやめろよ」
「わかってるって!」
「玲花ちゃん、下がって下さい!」
「わかった!」
玲花が後ろに下がると、万里が手を叩いた。
その音と同時に、敵がいた場所が爆発した。
「音爆弾!なーんてね!」
「なんてねじゃねぇ!なんなんだお前!」
「そんなこと言ってる場合じゃないよ、るーちゃん!まだリーダーっぽいのがいるんだから!」
「あ、ああ」
うなずきかけた流夏は、もう一度万里のほうを見た。
「おい、今のはなんだ」
「何が?」
「るーちゃんってヤツだ!」
「あだ名!可愛いでしょ?」
万里がニッコリ笑う。後ろで俊輔と玲花が吹き出した。
「ふざけんな!」
「皆さん、リーダーらしき男がいません」
麗羅の言葉に全員が先ほどまでリーダーらしき男がいたところを見る。
「るーちゃんがふざけてるせいですよ」
「るーちゃんって言うんじゃねぇ!」
騒いでる一同の前に、布をかぶって姿を隠してる人物が飛び降りてきた。
「もしかして……あいつ、変身する能力者か!」
「人の記憶を読むことも出来るみたいだよ!」
玲花が目を輝かせて言う。目利きの力を使っているらしい。
「能力と実力は伴っていないらしいがな」
「さっさと薙ぎ払ってしまいますよ」
俊輔が薙刀を構えて駆け寄る。その瞬間、待っていたと言わんばかりに男は布をとった。
俊輔は、薙刀を落とした。
「え?」
「あれって」
そこに立っていた人物は、セーラー服を着ていた。肩までの黒い髪が美しい、綺麗な少女だった。
だが、ここにいる誰もが知ってる顔をしていた。
「流夏さん、あれは、雀さん?」
麗羅が口にしたのは俊輔の母上の名前だった。言いながら流夏を見る。流夏も驚きに目を見開いていた。
「つば、め」
流夏が口にしたのは、麗羅と万里と玲花は知らない名前だった。