第三章 妹と目利きと名もなき鳥 13

私の家は目利きの家庭。生まれつき、人には見えない何かが見えた。

私は、目利きの能力で見える世界が好きだった。能力者なんて滅多にいないとわかっていたのに、よく使っていた。

それは、学校にいても同じだった。

私は自分の能力についてしっかり理解していた。普通の人は能力者を知らないし、私の見えているものは見えない。だから、何かを見たとしても口にしてはいけないとわかっていた。わかっていた、のに。

笹間君と同じクラスになった。男子はみんな笹間君を不気味がっていた。いつも無表情で、いつも何も言わなくて、赤い目をしていて、恐ろしいくらいに綺麗な笹間君を。そして、嫌がらせをしていた。何をされても笹間君は無表情だった。まるで人形みたいだった。

でも、女の子たちは違った。笹間君の美しい容姿に憧れる人は少なくなかった。私は興味なかったけれど、笹間君を不気味だとも思わなかった。

だけどあの日、私が能力を使ったせいで今までの日常が崩れてしまった。

休み時間のことだった。みんなで校庭で遊びつつ、私は能力を使っていた。その時、偶然笹間君が校庭に出てきた。

私の視界に、笹間君が入った。

「ひ、あ、いやああああああああああああああ!」

私は大声で叫んで泣いて逃げようとした。笹間君の背後の『それ』から。

校庭の視線が全て私に集まった。周りの友達は私を心配してくれた。でも、次第に私のおかしな発言を聞いて、みんな怖がって逃げて行った。

当たり前だよね。だって、見えないんだもの。怖くないに決まってるよね。わかってたのに、私は恐怖を隠せなくて。

校庭には、私と笹間君だけが残った。

「姫野さん」

その時、初めて笹間君の声を聞いたと思う。綺麗な、悲しそうな声だった。

「いや、いやだ!来ないで!」

私はとにかく泣きながら拒絶の言葉を彼にぶつけた。でも、笹間君はそれを無視して私に近付いてきた。

その時、なんだか甘い香りがして私は少し落ち着いた。

「ごめん、なさい」

そう聞こえて顔をあげた。そうしたら、笹間君が笑っていた。とても、悲しそうな顔で。

笹間君は私の手を引いて立ち上がらせると、私の頭を軽く撫でていなくなった。その動作は、とても優しいものだった。

私は、授業が始まるまでそこに立ち尽くした。

次の日から、私へのいじめは始まった。

私が一人で泣く度に、あの日と同じ甘い香りがした。笹間君だって、すぐにわかった。

きっと、これは罰なんだ。こんなにも優しい男の子にひどいことを言ってしまった私への罰なんだ。

話しかけなきゃ。話しかけなきゃ。そして、ちゃんと謝ってお礼も言おう。

それからチャンスを伺うために、私はよく笹間君を見ていた。それが、私が笹間君を好きなんじゃないかって誤解を生んで、また別のいじめが始まって。違うのに。私は、笹間君に謝らなきゃいけないのに。

「姫野さん」

いじめられてた時、笹間君が声を掛けてきた。たちまち適当なことを言っていなくなる女の子たち。また、助けられてしまった。

「笹間、君……ごめんね」

「なんの、ことですか?」

ひどいことを沢山言ったのに、あなたはどうして優しくしてくれるんだろう。

「大丈夫ですか?」

「ありがとう」

こんなに優しい人が、どうしてみんなに不気味がられるんだろう。

どうして、いつもそんなに哀しそうなんだろう。

この優しい人を、怖がりたくない。絶対に怖がりたくない。だから、私は変わろう。いじめが止まらなくてもいいから、私は変わろう。

少しでも、笹間君を救いたい。




「姫野さん、目が覚めましたか?」

目を開くと、笹間君がいた。

ほら、まただ。どうして、そんなに哀しそうなんだろう。

「落ち着きましたか?」

優しい人。怖くなんてない。

「うん、ありがとう。大丈夫だよ、笹間君」

七条雫
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