第三章 妹と目利きと名もなき鳥 14

「万里、起きなさい。姫野さんが起きましたよ」

玲花が周りを見渡すと、万里がベッドの側で寝ていた。

「玲花!大丈夫なの!?」

「うん。ごめんね」

「流夏さんも起きて下さい」

麗羅が部屋の隅で座って寝ていた流夏を起こした。

「私、どうしたの?」

「突然倒れたんです。俊輔さん、ナイスキャッチでしたね」

「いえ、間に合ってよかったです」

「そっか。ありがとう、笹間君」

「いいえ」

「ここは俊輔さんの部屋だよ。結構寝てたね」

「どのくらい?」

「3時間くらいですかね。流夏も万里も途中で寝てしまったくらいですから」

「だって昨日遅くに起きたし!」

「俺もそうだが、その元は誰のせいだ!」

「あはは、ごめんごめん!」

「そっか。みんな、ごめんね。ありがとう」

玲花がニッコリ笑うと、万里も嬉しそうに笑った。

「姫野さんも起きましたし、お話しましょうか。俺のことを」

「平気なのか?俊輔」

「ええ、大丈夫です」

「待って」

玲花が俊輔を止めた。

「それより前に、私の能力について聞いてほしいの」

「玲花の能力?」

「うん。それから、それで笹間君がどう見えるか。さっきは倒れちゃったけど、今は全部話せるよ」

「無理はなさらないで下さい、姫野さん」

俊輔の言葉に玲花は微笑んだ。

「大丈夫だよ。笹間君は優しい人だって知ってるから、話せる」

そう言いながらも、玲花は少しだけ震えていた。

「私はね、その人の能力も見えるんだ。だから、さっきの人の能力もわかった」

「そうだったな」

流夏が思い返しながら同意した。

「流夏君は火だね。さっきは使ってなかったみたいだけど」

「あんなヤツら剣だけで十分だ」

「流夏君らしいね。でね、本題に入るけど」

そこで言葉を区切り、玲花は俊輔を見つめた。

「笹間君は、地下世界の人でも天界の人でもないの」

玲花の言葉に、麗羅と万里は意味がわからず首を傾げる。

「そんなはずありませんよ。現に俊輔さんは、能力を使っています」

「いいえ、麗羅。姫野さんが合っているんです」

「え?」

俊輔は微笑んだ。そして、震える玲花の肩に手を置いた。

「姫野さんは、俺が怖いのでしょう?よく、我慢してくれました」

「ち、違うよ。笹間君の後ろに見えるものが怖いだけ。笹間君は怖くないよ」

「後ろに、何が見えましたか?」

俊輔にそう問われ、玲花は黙る。

「先ほど言っていたもので、合ってますよ」

「……狐」

「狐?」

やはり展開が理解出来ずに、双子はそろって首を傾げる。

「俺は地下の人でも天界の人でもありません。俺は、笹間俊輔は普通の人間です」

俊輔は『笹間俊輔』というところを強調して言った。

「待って。その言い方だと俊輔さんは、笹間俊輔じゃないみたいなんだけど」

「今は笹間俊輔だ。だが、昔の名前は知ってるんだろ?」

「名もなき、鳥」

麗羅の呟きに俊輔は微笑む。

「考えてみて下さい。先ほど見た燕のことを。母さんと双子で、高校の時に亡くなってるんですよ」

「九年前だったな」

流夏の言葉に麗羅が思考を巡らせ、立ち上がった。

「お、おかしいです!なら、俊輔さんとの面識があったとしても……先ほどの俊輔さんの様子は明らかにおかしいです!」

「彼女とは笹間俊輔としての面識はありませんよ」

その発言で、女子三人はハッとした。

「名もなき鳥。大昔から地下世界で暴れていた妖狐の名前ですよ」

麗羅、万里、玲花が黙る中、流夏が大きなため息をついた。

七条雫
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