第一章 転校生と眼鏡と小さな侍 9
「おはようございます、流夏さん」
流夏が目を開くとすぐそこに麗羅がいた。
「近い」
覗き込んでいた麗羅にそう言うとすみません、と麗羅は離れた。
流夏は少し頬を赤らめて視線を逸らしながら起き上がった。
「俊輔は?」
「俊輔さんは、雀さんに呼び出されてましたよ。荷物が重くて一人じゃ持てないそうです」
「アイツは相変わらずアホだな」
「俊輔さんも同じようなことを言ってました」
「そうとしか言えないからな、あいつのアホっぷりは」
親しそうな流夏に違和感を覚えたが、昔からの知り合いならさほどおかしくない。そう思って麗羅は話題を変えた。
「ヨウカ、とは探している人のことですか?」
その言葉に流夏は麗羅のほうを見る。
「俺は、何か言ったのか?」
「はい。うなされていたので起こしました」
「そうか」
「すみません。聞くつもりはなかったのですが」
「それぐらい、わかる」
流夏がそう言うと麗羅は微かに嬉しそうにした。だが、すぐに表情は真剣なものになる。
「ずっとヨウカさんを呼びながら、流夏さんは謝られていました」
「そうか」
「すみません、結局聞いてしまって」
麗羅が申し訳なさそうにすると、意外なことに流夏は首を横に振った。
「未だに過去を夢に見ている俺が悪い」
それは、まるで自分を嘲笑うかのように言った。
「流夏さん」
「なんだ」
「情報屋さんのところへ、私も連れて行って下さい」
流夏は驚いて麗羅を見た。
「私、何かお役に立ちたいです」
「知り合ったばかりのヤツの事情に首を突っ込んでどうする?」
「私、流夏さんと俊輔さんを知りたいです。もっとあなた方に近付きたいです」
「お前」
「お二人を、気に入ってしまったんです。これでは理由になりませんか?」
麗羅の目は真剣そのものだった。流夏もそれを逸らさずまっすぐ見た。
「楽なわけじゃねぇ。それなりに危険だぞ?」
「え?心配してくれてるんですか?」
麗羅がそう聞くと流夏は少し間を空けてから顔を真っ赤にした。
「ち、違う!」
「ありがとうございます」
「違うと言っている!」
流夏は顔を真っ赤にしたまま後ろを向いてしまった。麗羅はそれを見て少し笑いながらありがとうございます、と小さな声で呟いた。
「私なら、大丈夫です。ですから、手伝わせて下さい」
「勝手にしろ」
「ありがとうございます」
「おや、麗羅もついて来ることになったみたいですね」
二人が声がするほうを見るといつの間にか部屋に俊輔がいた。
「お前、いつからそこに?」
「いつでもいいでしょう?俺の部屋です。さて、仲間も増えましたし、早速明日行きましょう」
「そうですね。早いほうがいいです」
「決まりですね」
「では、私は帰りますね。流夏さん、お団子ありがとうございました」
麗羅が深々とお辞儀をする。
「あ?ああ」
忘れていたらしい流夏は間の抜けた返事をした。そんな流夏を麗羅はジッと見つめた。
「なんだ」
「流夏さん、髪を解いているとカッコいいですね」
「なっ!?」
「まあ、わからなくはないですね」
俊輔がわざとらしく笑いながら相槌をうった。そんな俊輔に流夏が枕を投げ付けるがそれは見られもせずに軽くかわされた。
「では、俊輔さん、お邪魔しました」
「いえいえ。また明日」
「はい。失礼します」
そう言って麗羅は部屋を出ていった。
「ずっと解いていたらどうですか?」
「うるせぇよ」
流夏は俊輔を一度にらんでから視線を逸らしてため息をついた。
「なんなんだ、アイツは」
いつものように髪をまとめながらそう呟いた。