第一章 夢見る少女と怪盗見習い 4
「警察だ!」
扉が開くと、少年はティファを自分の後ろにかばった。
「やっぱり怪盗とつるんでたのか!」
「抵抗は無駄だぞ!」
ティファは慌てて『月の魔法』という本を抱えた。
「それは?」
「火事の時に唯一残ったものなの」
「わかった。それをしっかり持ってて」
「今からでも遅くないわ。あなただけでも逃げて」
「逃げる?女の子を残していけるわけないじゃないか」
少年はニッコリ笑う。
「今から君も怪盗見習いの仲間だ。だから、リーダーである僕を信じて」
少年の真面目な表情と言葉に、ティファは黙ってうなずいた。
「僕の名前、決まった?」
ティファはちらりと本を見た。幼いころから見てきた本だ。
「……ピーター」
「ふーん。なかなか普通でいいね」
少年、もといピーターはニッと笑うと突然ティファを抱き上げた。
「怪盗見習いピーターだ!彼女はいただいてく!」
ピーターの行動に警察も叔母も、それどころかティファも驚いていた。
「僕を信じて、ティファ」
ピーターがティファに小声で囁き、ティファもうなずく。
するとピーターは窓に足をかけた。
「まさか、このまま飛び降りるつもり?」
「人を抱えては無理かな」
「え?」
「大丈夫だから、信じて」
ピーターはニッコリ笑うと、ティファを窓から放り投げた。
「きゃああああああああ!」
ティファも、警察も叔母も誰もが思ってもいなかった行動だった。ティファは悲鳴をあげながら、どんどん地面に近付いて行く。
「スティーブ!」
ピーターがそう叫ぶと、突然人影が現れてティファを受け止めた。
「大丈夫か?」
「え、ええ。ありがとう」
「ナイスキャッチ!それでは皆さん、さようなら!」
そう言ってピーターも窓から飛び降りた。警察が慌てて駆け寄るが、もう遅い。ピーターと、ティファを抱えたスティーブという人物は走っていた。
「寿命が縮まったわ!」
ティファが涙目で叫ぶ。まだ心臓が大きな音を立てている。
「全くだ。無茶にも程がある」
「あはは!ごめんごめん!だってスティーブなら大丈夫だと思って!」
「知らない間に仲間も増やすし、本当に勝手だ」
布を被ったスティーブという人物。少し不機嫌そうだ。
「えっと、スティーブ?私、重くないかしら」
「平気だ」
そっけない返事だが、声の優しさに安心する。ティファからはスティーブの顔が見えなかったが、なんとなくこの人物は頼れると思った。
「ティファ・エレクトリアよ。助けてくれてありがとう。よろしくね」
そう言ってティファは微笑んだ。それに対してスティーブは何も言わなかった。
「僕には?」
「突然窓から放り投げるような人に、お礼の言葉なんてないわよ」
「そんなぁ」
「冗談よ。ありがとう」
ティファが笑うと、ピーターも笑い返した。
「ところで、リーダー。このあとどうやって逃げるんだ?」
スティーブの疑問にピーターは笑顔で応える。
「うん、良いことを聞いてくれたね」
「何も考えてないのか」
「流石スティーブ!わかってるじゃないか!」
「え、そうなの!?」
ティファが驚いて声をあげるが、ピーターはのんきに笑っている。
「なんとかなるよ!」
「ひとまず、この町を出るしかないな」
「道は……ティファ、わかるかい?」
「わからないわ」
「わからないのかい!?」
「だって、この町を歩き回ったことないもの」
流石にピーターが顔を引きつらせる。その時、曲がり角から一人の少年が現れた。
「エレクトリア?」
その少年の出現に、思わずピーターとスティーブは足を止めた。
「え、ラウル?」
現れたのは、ティファと同じ学校のラウルという少年だった。