第一章 夢見る少女と怪盗見習い 5
「今、あちこちで君が怪盗の仲間なんじゃないかって騒がれているんだ。でも、まさか本当に?」
そう呟いたラウルの瞳はどことなく虚ろだった。
「ラウル……」
ティファがそう呟くと、スティーブはそっとティファを降ろした。
「怪盗じゃない。怪盗見習いだよ」
「どっちでもいいわ」
「どっちでもよくない!これは大事なことだよ!」
わめくピーターの頭をスティーブが殴った。
「いっ!?」
「空気を読め。少し黙ってろ」
布から覗く金色の目は、どこか威圧感があった。ピーターは口を尖らせながら、黙った。
「ありがとう、スティーブ」
「別に。コイツの面倒は俺が見るしかないからな」
そう言ってスティーブはピーターの首根っこを掴んで歩き出した。
「友人なんだろ?少し離れてるから話せばいい」
「あなたは気が利くわね。ありがとう」
二人が離れると、ティファはラウルに向き直った。
「怪盗見習い、だそうよ」
「うん、聞いてたよ」
ティファはにっこりと笑った。
「私、あなたには会わずに出て行きたかったわ。あなただけはこの町で違った。私、あなただけは好きなの」
そんなティファの台詞に、ラウルは顔を赤らめる。そして、一歩ティファに近付いた。
「エレクトリア、あの、僕、ずっと……」
恥ずかしそうにして目を反らす。しかし、すぐに覚悟を決めたように、緑色の瞳は真っ直ぐにティファを見据えた。
「君が好きだったんだ」
ティファは進み出てラウルの手をとった。
「知っていたわ」
「え?」
「あなた、わかりやすいんだもの」
ティファが笑いながらそう言うとラウルは顔を真っ赤にして苦笑した。
「私、あなたのそういうところが好きだったわ」
ティファの発言にラウルは驚いて目を見開いた。
「あなたとだけは、友達でいたかったの。だから、ごめんなさい」
ティファがそう言うとラウルは慌てて首を振った。
「あ、謝らないで!君は悪くないんだから!」
「……ありがとう。嬉しかったわ」
そう言ってまた微笑んだ。ラウルもどこか嬉しそうに笑った。
「ところで、あなたはどうしてここに?」
「君が本当に怪盗の仲間か確かめに来たんだ。学校で怪盗の話をした時に少し様子がおかしかったから、もしかしてと思って」
「……警察を呼ぶ?」
ティファのその言葉に、ラウルは静かに首を振って笑った。
「君は外に出してもらえなかったから、道がわからないでしょ?ついてきて!」
「ラウル……」
「それは助かるよ、ありがとう!」
「……申し訳ない」
近付いてきたピーターとスティーブもラウルに礼を言う。ラウルはティファの手を引いて走り出した。二人も後を追いかける。
「君は、こんなところにいちゃいけないんだ」
「え?」
「いなくなってしまう気がして……もう会えない気がして、君の家に向かうところだったんだ。君にはもっと相応しい場所がある。今が逃げ出すチャンスなんだね」
「ええ」
「僕から見ても、君だけはこの町で違っていたよ。君たちの活躍を、ここから見守っているよ
「……ありがとう、ラウル」
ラウルは嬉しそうに笑った。
「ここまで来れば、大丈夫。あとは真っ直ぐ行けばここを出られるよ」
そう言ってティファの手を離した。
「ありがとう、ラウル!助かったよ!」
「礼を言う」
そう言ってピーターとスティーブがラウルの横を通り過ぎた。
「じゃあ、元気でね。エレクト……ティファ」
恥ずかしそうに顔を背けたラウルに、ティファは笑う。
「ありがとう、ラウル。あなたも元気でね。時計塔の番人、頑張ってね」
そう言うと少し先を歩く二人を追ってティファは走り出した。
「本当に、行っちゃった」
三人が歩いていったほうを見て、ラウルはどこか満足げに笑った。
「どうか、元気で」
これからは、彼女が笑顔でいれますように。
そっと呟いてラウルは町のほうへと歩き出した。