第一章 夢見る少女と怪盗見習い 6
三人は町を出て、森に入ろうとしていた。この森は人が沢山行き来していて、道も歩きやすい。ここから他の町までの距離もそこまで遠くはなかった。
「これからどうするの?」
ティファがそう問うと、ピーターはニッコリと笑った。
「さっきスティーブと話して決めたんだけど、まずは近くの町に寄ろうと思ってるんだ」
「近くの?」
「ああ。今夜中には着くだろう」
「近くの町で平気なのかしら。もっと逃げるべきではないの?」
「お前のためだ」
即答したスティーブにティファはきょとんとした。そんな二人を見てピーターは苦笑する。
「それじゃあわからないよ、スティーブ」
「そうか、そうだな。お前の服を買いに寄るんだ」
「え、私の服?」
「女の子なのに、いつまでもそんな格好じゃ嫌だろ?せっかく可愛いのにもったいないじゃないか」
「なっ!」
ピーターの言葉にティファは頬を赤らめる。こんなにさらりと可愛いと言ってのける人物は今までいなかった。
「それに、バタバタして出てきただろ?ひとまず休もうかと思ってね」
「次の標的も調べられるしな。お前も突然こんなことになって大変だろ。早く休んだほうがいいだろ」
「そう……ありがとう、二人とも」
自分のため、というのが大きいようだ。ティファは二人の優しさに心から感謝した。
「仲間になるなら、ちゃんとした場所で話すべきだしな。俺のことを」
スティーブが辛そうな声音で言う。その表情は布で隠されて見えない。
「あなたの外見に関することなのでしょう?何かあるのなら知りたいわ。仲間になるんですもの。でも、あなたが辛いなら話さなくてもいいわよ」
「そういうわけにもいかないだろう。なあ、リーダー」
「うん、そうだね。これはティファは知っといたほうがいいよ」
「そう?」
「お前のためには、見ないほうがいいと思うがな」
「甘いなぁ、スティーブ。僕が仲間に引き込んだんだよ?ティファなら大丈夫だって!」
ピーターはスティーブの背中をバシバシ叩きながら笑う。話がわからないティファは、そのやり取りを黙って聞いていた。
「そろそろスピードを上げようか。とりあえず目的地も決まったしね」
「そうだな」
スティーブが同意すると、ピーターは突然ティファを抱き上げた。
「え!?な、何!?」
「急ぐならこのほうがいいかと思ってね」
「わ、私、足遅くないわ」
「俺とリーダーは普通じゃない。普段ならまだしも、急ぐ時はお前がいくら足が速くてもダメだ」
「そういうこと。流石に僕は抱えたまま飛べないけど、走るくらいなら平気だよ。ティファ、軽いしね」
ピーターはニッコリと笑いかける。ティファはまた少し赤くなった。彼の言葉に先ほどから翻弄されっぱなしでいる。
「俺じゃなくて平気か?」
「大丈夫だってば。それに、可愛い女の子をお姫様抱っこ出来る機会なんてあまりないじゃないか」
「ちょ、ちょっと、そんな理由なら降ろしなさい。スティーブに抱っこしてもらうわ」
「嫌だね」
ティファが憤慨しているが、ピーターは気にも止めない。むしろ楽しそうだ。
「走るぞ。お前は喋らないほうがいい。舌を噛むと危険だ」
「え?」
「うん。だから静かにね、ティファ」
わけがわからないまま、二人は走り出した。
「きゃっ」
そして意味を理解した。二人は人間とは思えない速さで走り出したのだ。
抱えられたティファは、落とされないようピーターにしっかり掴まっていた。
しかし怖がったりはしていなかった。楽しそうにティファは笑う。
自分はついてくる人を間違えなかったのだと。