第一章 夢見る少女と怪盗見習い 7
「着いたよ、ティファ」
ティファが目を開くと町に着いていた。いつの間にか眠っていたようだ。
「ごめんなさい、私だけ眠ってしまったのね」
「いろいろあったんだし、仕方ないよ」
「あんなスピードの中、よく眠れたな」
スティーブに呆れたように言われ、ティファは恥ずかしそうに顔を背ける。
「つ、疲れてたのよ」
「さて、町に着いたし降ろすよ」
「え、ええ」
地面に足をつけ、改めて町を見る。歩き出した二人に続いてティファも町に入る。
「私、他の町に来たの初めてだわ」
キョロキョロと辺りを見回しながらティファが言った。
「そうなの?」
「小さい時に……本当に小さい時にあるかもしれないけど、覚えてる限りではないわ」
「じゃあ、少しだけゆっくりしてこうか」
「リーダー、流石に見つかる危険があるだろ」
「あ、そっか……じゃあ今日は一日見て回ろう」
「本当?楽しみだわ」
ティファは心から嬉しそうに微笑んだ。
「ひとまず、宿をとろう。シャワーも浴びたいし」
「あそこにあるぞ」
「行きましょう」
宿に入るとピーターが二人の方を向いた。
「僕がとってくるから少し待ってて」
「ああ、任せた」
ニッコリ笑ってピーターがカウンターへ向かう。
「ねぇ、二人は寝なくて大丈夫なの?」
ふと二人が昨日一睡もしていないことを思い出し、ティファは尋ねた。
「問題ない。だって、今日は町を見て回るんだろ?」
「あっ」
それも自分のためだと気付き、ティファは申し訳なくなった。自分だけ寝てしまったというのに。
「気にするな。俺もアイツも慣れている」
「ありがとう」
ティファが笑いかけると、スティーブは視線を逸らした。
「えぇ!?困るよ!!」
突然ピーターが大声で叫んだ。しばらく店の人と話し、頭を掻きながら二人の元へとやって来た。
「何かあったの?」
「ごめんよ、ティファ。一部屋しかとれなかったんだ。僕とスティーブと同じ部屋になっちゃったんだけど」
申し訳なさそうにするピーターにティファは首を横に振る。
「大丈夫よ。気にしないわ」
「それもどうかと思うけど」
「失礼ね。だってせっかく誰かといるんだもの、一人部屋は寂しいわ」
ティファがそう言うとピーターは安心したように息を吐いた。
「そういえば、あなた達お金は大丈夫なの?」
「元々少し持ってたんだ。これからあの指輪も換金しちゃうよ」
「これはどうするんだ?」
そう言ってスティーブが取り出したのは紋章が入った別の指輪。
「え、それ!」
ティファはその紋章に見覚えがあった。
「もう、スティーブ。コッソリ換金しちゃうつもりだったのに」
「ちょっと、いつ盗ったのよ!それ、アイツの家の紋章じゃない!」
ティファの言うアイツ、とは彼女の元婚約者のことだった。
「君の嫌いだった婚約者のだろ?こっそり学校に侵入してすれ違った時にね」
「あなた、学校にいたの!?」
「仲間になるかもしれない人のことを少しでも知っておこうと思ってね。それに、これで君の服も買える」
ピーターがニッコリ笑う。何から何まで自分のためにしてもらっている。ティファはやはり申し訳なくなった。
「ありがとう。今頃アイツ、焦ってるわ」
「どういたしまして。それじゃあ、換金しに行こうか」
ピーターの言葉にティファは黙って頷いた。感謝の気持ちでいっぱいで何も言えなかった。