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 ここが何処なのかは未だに分からないけれど、大城市の中であることを俺は把握できていた。

 なぜなら、大城市のシンボルであり、大城市を一望できる『アース・タワー』がここからでも確認できる位置に聳(そび)え立っていたからだ。

 ーー早く、あいつの元に行かないと。

 凛花が途中で電話を切った理由はなんであれーー凛花が志奈を見つけたことのは確かであり、紛れも無い事実だろう。

 だから、俺が一刻も早く凛花の元に行かなければならないのに、天の悪戯か懐中電灯らしき物で顔を照らされーーーー

「君、こんな時間に何してるの?」
「今はそんなこと、どうでもいいだろ!!」

 警察官に向かって俺は激昂した。

 それを見て遡行の悪い不良少年と思ったのか、俺の胸倉を掴むなりーーーー

「なんなの君は! こんなに綺麗な警察官に向かって、その口の聞き方はないでしょ?!」

 自らが正義の味方であることを誇張したいかのように、自分の正義を俺に押し付けて来た。

「とにかく来なさい。親御さんに連絡取るから今すぐパトカーに……」

 胸倉を掴むのをやめた警察官は自分の袖に付いた血痕を見るなり、目つきを変えーー俺に再度尋ねて来た。

「君ーーまさか、他の誰と喧嘩してたの?」
「いや、俺はただ大切な奴が心配なだけなんですが」
「友人思いなんだね。お姉さんが着いて行ってあげるから、場所を案内しなさい!!」

 目を爛々と輝かせている警察官に対し、この状況をすぐにでも切り抜けたい俺はーーーー

「いや、ただ呼ばれたから行くだけですから、これ以上構うのはやめてくれますか?」
「ツンツンしなくてもいいんだよ、君。いいから早く乗りなさいよ! 良いから早くーー」

 どうやら、少年同士の熱い友情ドラマを警察官は勝手にイメージしているらしく、無理矢理パトカーに連行されると警察官は鼻歌を歌いながら、車をキー入れ、エンジンをかけていた。

「いやー。最初は死体があるって通報受けたからビックリしちゃったけど、喧嘩だったとはねー。
 それにしても青春してるねー、君。お姉さん、そういうの憧れちゃうな」

 警察官はただ巡回をしていたのではなく、通報がありーー死体だと思われていた俺がこうして生きていた為に喧嘩で負けて、これから敵討ちをしに行くと思っているのだろう。

 これ以上訂正するのも面倒なので、俺は他人行儀の愛想笑いをして要件を伝えることにした。

「大城駅近くの工事現場で、八田なんとか辺りで連絡が切れたんで、八田しかわからないんですけど、わかりますか?」
「八田(はちだ)建築ね。まぁ、あそこら辺はーーおっと、極秘情報を学生に話しちゃう所だったよ。お姉ちゃん、ちょっと飛ばすからシートベルトは忘れないでね」

 ーーそこからは疾風のように道路を駆け抜けられた。

 もちろん、警察官である彼女の運転技術が極端に突出している訳ではなく、サイレンを鳴らしているが為に周りの運転手達が道を譲り、スムーズに道路を走る事が出来たからだ。

「いやー、周りが道を譲ってくれると私が偉くなった気分になるからーー本当、この時だけは警察になって良かったと思うよ」
「あのーー事件でもないのに、サイレン鳴らしても大丈夫なんですか?」
「いいのー、いいのー。なんかあったら、君のせいにしとくから」

 警察官とは有るまじき発言をしながらも、彼女も一人の人間であり、俺の事を気遣ってくれるくれることに感謝しなければならないのかと思うと、少し背中がむず痒くなる思いをした。

「ここが八田建築の工事現場だけど、君の大切な人とやらはどこの誰なのかな?」

 ニヤニヤした目つきでこちらを見る警官を見て、思わず俺はーーーー

「探してる奴はここにはいないですが、あそこにいる柄の悪そうな金髪ピアス野郎が、俺達に絡んで来たんですよ」
「よーしっ! お姉さんが国家権力を行使して解決しちゃってくるから、君はそこで待機しててね」

 正義感を全面に押し出している彼女から離れることができるのは今しかないと思いーー俺は適当な人物に罪を偽装してパトカーから抜け出すと、檻から抜け出す脱兎の勢いで駆け抜けていた。



 私はあの高校生に騙されたーー柄の悪そうな金髪ピアス野郎は演劇団の一員で、とてもいい好青年だった。

 私は腹の苛立ちがどうにも収まらず、警察官としてではなく、一人のか弱い女性を騙した野郎に詫びを入れさせる為に少年を探すことにした。

「さっきの少年ーー悪いことは言わないから、補導されたくなかったらお姉さんに土下座する為に出て来なさーい!」

 八田建築の工事現場で叫んでは見るが誰の姿もなくーーあの少年が何をしたかったのか些か疑問に思ってしまった。

「あぁ、もう。こっちは正義の味方だからって残業してまで君に付き合ってあげたっていうのに、お礼の一言もないのかなー。本当、最近の高校生はどうかしてる」

 私は高校生に騙された屈辱を晴らしたいが為に、路地裏の細い道を進むことにした。

 路地裏は煌びやかな大通りとは違い、この街の汚れが一点に濃縮されているのではないかと疑いたくなるくらいに汚れて廃れている。

「普段はあんまり行きたくないんだけどなー。仕方ない。あの少年に土下座させる為だ! 行くのよ、私」

 私は、あの高校生に土下座させたいという思いもあったが、素直に心配でもあった。

 私の襟に付いた血ーーどんな状況で付いたかはわからないけれど、かなりの出血だったのは間違いないはずだ。

 それなのに、彼は大切な人の為に助けに行くなんて言っていたんだから、それだけ言わしめた大切な奴の顔を拝まずに帰れずに居られないとーー補導した際に書類を書く手間を省きたかったのが一番の理由だけど、それを美化して自分を誤魔化すことにした。

「でも、ここら辺って殺人事件も最近あったし、やりたいこともあるから応援でも呼ぼうかな」

 と、独り言を呟きーー本当の目的である録画していた昼ドラを見るために、私が連絡をしようとするとーーーー

 首のない人間に突き刺さっている異形の形をした鋭利なものから、紅くドス黒い液体が滴り落ちていた。

 訳のわからない状況の中に、一人の女が現れーーーー

「邪魔しちゃ、ダメでしょ。今、良いところなんだから」

 ーーそうか、あれが私の体か。

 私の意識はそこで薄れ、闇が支配する静寂のみ世界に引きずりこまれた。

真口 祐輔
この作品の作者

真口 祐輔

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