12

「凛花ー、志奈ー! お前ら、どこにいるんだよー」

 俺の声は山彦のように響き、その空間に何度か呼応する。

 だが、その空間に存在するのは水の落ちる規則的な音と、不規則に繰り返す俺の足跡だけだった。

 今、俺が歩いているのはーー本来なら許可が無ければ入れないであろう巨大な地下水路である。

 そんな場所に、どうして俺が入れているのかと言うとーー昔、志奈と俺と凛花でかくれんぼをしていた時に志奈が偶々見つけた秘密の通路があり、それを通ると巨大な地下水路に入れるのを、志奈が偉く自慢気に話していた。

 もっとも、どうしてこうも簡単に扉一つで地下水路に入れるのかは不思議ではある。

 けれど、地下水路の本来の目的が台風や洪水などに発生する膨大な水を貯蓄し、それを排出する為であるからーーそんな場所に好んでやって来るのは俺達のような偏屈者しか居ないだろうと思うと、素直に納得できた。

 ここの地下水路は、基本的に水は一定の量しか入って来ない。

 後、何故かはわからないが、放水前には必ず連絡がありーーそのおかげなのか全くと言っていい程に放水による死者は出ていないと言う。

 だから、無謀と揶揄されても否定ができないことも出来ているのだけれど。

 今、こんな危険な行為をしているのは志奈と凛花はここに入ったのはきっと間違いないからだとーー現状の迷いを吹っ切るために俺は帆を進めた。

 帆を進めて数分で左右に別れた通路に行き着いた。

 ここからは先はライトなどの灯が付いてない為、ガキの頃の俺達はここを終着点として、ここから先には進んで行けないルールになっていた。

「ここまで来て居ないなら、俺の勘違いなのかな……」

 こんな長期に渡って尺を取った読者に対する責任ーーいや、俺に対しての落とし前と紛らわしい電話の切り方をした謝罪を聞こうと、俺は凛花に再び電話することにした。

 携帯電話からはトゥルル、トゥルルと時間の経過を知らせるだけで応答はなく、無駄な時間が過ぎていた。

「やっぱり、出ねーか」

 と、俺が通話切ろうと耳元から携帯電話を話した際にーーーー

 コンクリートの上に硬い金属を投げ付けたかのような、甲高い音が右側の遠くで聞こえるのを俺は耳にした。

「おい、凛花か? 居るんだったら返事してくれ!!」

 俺の言葉に返事は無く、多少の恐怖はあったがーー俺は音のした方向に向かう為に、暗中の中、俺は携帯電話のライトを頼りに道を進んだ。

 なぜ、そう思ったかというとーーこの奥に凛花や志奈がいるのではないかという期待と、それではない何かがいるという恐怖が俺の心で入り乱れ、混ざり合いーーそして、複雑に絡み合っていたからだ。

 ライトを照らして歩き続けると、巨大な円柱がそびえ立つ広い空間にたどり着いた。

 そこを灯が照らし、俺を眼に見たくもないものを見せつけてきた。

 怪物から生えている昆虫の外骨格のような異形の物体が、死体の腸を抉るかのように突き刺し、裂けた部分から溢れ出る液体を怪物が残さず啜り、歓喜の声を木漏れ日のように漏らしながら、化物のように貪り散らしていた。

真口 祐輔
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真口 祐輔

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