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「おい、お前。こんな所で何してるんだよ……」
怪物は動きをやめ、元の少女の姿に戻りーーーー
「那由多なのーー来ないで、来ないで、来ないで、来ないで、来ないで!!」
返り血に塗れた志奈はこの世の全ての穢れを見て、絶望したかのような表情を浮かべ、何かを必死で隠している。
「なんでだよ、志奈。お前どうしたんだよ? なぁ、一緒に帰って凛花に無事って伝えてやろうぜ。
あいつ、お前のことバカみたいに心配して走り周って、お前のこと探してるんだぜ? お前の母親か、なんかだよな。本当」
俺は志奈の方へ、また一歩と帆を進めた。
その行為に志奈は悲壮満ちながら、俺に近づくことを躊躇って近づこうとはせずに、俺に罵声を浴びせてきた。
「なんで那由多はわかってくれないの?! 来ないでって言ったら、来なければいいじゃん!! 那由多だけは、私の味方だって志奈信じてたんだよ!!
ずっと、告白だって待ってたし、那由多は志奈だけを大切にしてくれるって思ってるのに、それも全部嘘だったんだよね。
那由多が車から私を救ってくれたのって、私のことが大好きだからって、ずっとずっと思っていたのにーー結局、那由多も凛花と同じ考えなのね。もう、“あの人”しか信じられないよ!!」
志奈は後ろの何かを隠すのをやめて立ち上がると、背中から濃緑色の触手を生やしーーーー
「那由多も、食べていいよね?」
追い詰められた蛇と同じ眼をした志奈は背中から生やした触手を加速と伸縮を繰り返して、俺の左腹部を掠めると後ろのコンクリートの支柱を削っていた。
削られた俺の左腹部からは血がドクドクと溢れーー意識が遠退く中、俺は昔のことを思い出していた。
魚のような鱗を纏い、触手のような大きな尻尾を生やした怪物ーーーー
目の前で大泣きしている幼馴染から生えているのは、俺が昔見た触手にとても似ている。
だけど、俺が見た怪物が志奈なら、志奈はずっと怪物のままだったのかを確認しなくてはならないと思いーーーー
「志奈……。その生えている奴はいつから生えていたんだ?」
「そんなの、那由多には関係ないでしょ!!」
俺の問いは答えの出ないままーー志奈が自分の喉元に向かって、触手を振りかざそうとすると、何かによって切断された触手は砂漠に咲く花のように、すぐに干からびていた。
そして、目の前には制服を身に纏いーー右腕にはレイピアのような武器を持っている女子高生がいた。
その女子高生はーーーー
「何故、忠告を素直に聞かなかったのですか? あなたは死にたがりの馬鹿なんですか?」
感情の欠片もない機械人形みたいな薄氷アリスだった。