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 志奈とは同じクラスなので、一緒に教室に入る。

 いつもなら周りからの冷やかしがあるのだが、雰囲気を察したのか誰も冷やかしをしてこない。

 その代わりと言ってはなんだがーー女子グループのボスであり、志奈の親友である篠原凛花(しのはらりんか)が目の前に佇んでいた。

 篠原凛花は容姿端麗で頭脳明晰ーーおまけに生徒会役員で志奈の親友だ。

 本来なら色恋沙汰が絶えない典型だろう。

 だが、それを一瞬で消しとばしてしまう部分が一つだけある。

「ちょっと、那由多。あたしの志奈に何したの!?
 指の二、三本は無くなる覚悟はできてんでしょうね?」
「那由多は何も悪くないよーー!! 凛花は落ち着いて!!」

 極道の一人娘で、この肝の据わった口調。目で人を殺すとしたらきっとーー凛花のことだろう。

 俺は未だにこいつには逆らえないし、こいつが有言実行しなかったことの方が少ない。

 きっと、志奈が止めに入らなかったら、本当に指の二、三本は無くなっていただろう。

 それに、夏休みがバイト三昧になったのも、凛花から紹介されたバイト先が原因だ。

 監視という大義名分を掲げては志奈と一緒に食いに来てーー俺のバイト代がいくら減らされたことか……。

「志奈が言うなら落ち着くわよ。
 でもね、志奈。こいつの目付きがムカついて仕方がないのよ!」
「凛花!! 那由多はたしかに目付きがムカつくよ。
 それに周りが恥ずかしくなること平気で言うし、私の些細な変化にもすぐ気付く変態だけどーー良いところも……」

 若干の間に耐えられなかった俺は思わずーーーー

「良いところねーのかよ!!」
「良いところ無いじゃない!!」

 なんて、凛花と同じタイミングで言ってしまいーー耐えられなくなったせいなのか、クラスから笑い声が聞こえてきた。

 凛花もこの空気に耐えられなくなったのか、頬に朱を注いだように赤面し、黙って席に着いていた。

 その後、朝のホームルームが始まり、担任から転校生が来るという連絡があり、高校では珍しい転校生にクラスは降り注ぐ落雷のように騒がしくなっていた。

 教室の騒音を掻き消すかのようにガラガラと教室の扉を開け、転校生がクラスに入って来る。

 その女はあまりにも日本に不釣り合いな容姿で、中世の絵画に描かれているであろう女神そのものだった。

 普段なら、茶々を入れる男子も見惚れてしまったのかーー皆は無言になってしまい、慌てて担任が自己紹介をしようとするとーーーー

「薄氷アリスです。ドイツと日本のハーフですが、日本に滞在していた時期が長いので、英語などで話しかけなくても大丈夫です」

 あまりにも流暢に日本語を話すので、担任も驚いたのか、何をしたら良いのか分からない新入社員みたいにおどおどしていた。

 それを見かねてなのかーーアリスは先生に、

「先生、私の席はどこですか?」

 先生は慌てて空いている席を探し、そこに座るように指示した。

「わかりました」

 アリスはそのまま空いている席に座ったーー俺の横の席だ。

 周りはというと呆気に取られた傍観者と言った所だが、志奈と凛花だけは違った目線をしていたーー獲物を殺す眼と動揺を隠せない眼だった。

 それは無理はないだろう。朝の登校中に見かけたよだれを垂らしている原因の一つであろうーー犬の死体を見ても無反応で飲食を続けていた女。

 あの時は俺も動揺していたせいかもしれないが、今ならしっかりと識別できる自信がある。

 何故ならーーこの女の目には人間らしさがまるでないからだ。

 与えられた任務を最短ルートでこなし、それ以外の余分な動作は一切しない。

 ただ一つの目的以外は眼中にないーー例えるなら、機械仕掛けの人形と言った所だろうか。

 それ故に、話しかけづらいオーラを放っている。

 だが、あの二人の目線の説明をしないと、今後のクラスでの立場が非常に困難になるとは思った俺は、この状況を説明することにした。

「俺の名前は那由多浩一。あそこの二人は変な奴だけど、悪い奴じゃないから気にしないでくれ。
 それに、時期に仲良くなれると思うからさーー」
「そうですか。頼んでないのに、わざわざありがとうございます。」

 話の途中で食い気味に会話を切られ、こちらの顔を見ることもなく彼女は教卓の方に体を向けたままだった。

真口 祐輔
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真口 祐輔

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