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「那由多にあんな態度とか、志奈信じられない!」
「那由多なんかどうでもいいけど、あたしもお高くとまってる奴は嫌いなのよ」
俺の席に机ごとくっ付け、弁当そっちのけで転校生に対しての文句を言っている。
二人の会話に入る余地などなく、俺は蚊帳の外だ。
それなら、俺の席に机ごと付けなくてもいいのではないかとも思うが、それを言うのは油田に火炎瓶を投げ込むと同等の行為なので、黙っておくことにした。
肝心の転校生はと言うと、皆が声をかける前には既に姿を消していた。きっと、この二人に関わりたくないからだと周りの人は思うだろう。
ーー俺もそれであって欲しい。
しかし、俺の机に入っていた手紙の文面は無視できる内容ではなかった。
「私に対して動揺の目線を向けていた彼女ーー前と変化があるなら、昼休みに屋上に来て下さい」
名前は書いてないが、差出人は一人しかいないーー薄氷アリスだ。
彼女は志奈の異変に気付いているのかもしれない。そして、何らかの情報を知っている。
それに、言っておかないといけない事もある。
黙って席を立とうとすると、志奈がどこに行くか聞いてきたので、
「お花畑にお花摘みに行ってくるだけだよ」
「那由多、お腹痛いの? 保健室一緒に行こうか?」
「志奈、トイレなんか一人で行かせなさいよ。どうせ、それぐらいしか取り柄がないんだから」
この前、トイレに行くと行ったときに、
「飯中にトイレ行くとか、汚いこと言わないでよ!! そんなにトイレに行きたいなら、黙って行けばいいじゃない!」
皆が昼食で雑談を交わしながら食事をしてる中、すごい剣幕で俺の発言に怒りをあらわにしていた。
もっとも、トイレと一番連呼していたのは凛花であり、人に散々言うなと言っていた凛花本人がトイレと言っている。
「志奈の親友じゃなかったら、俺はお前と関わってなかったな」
「何? 行くならさっさと行って来なさいよ」
過程はどうであれ、屋上に行く口実が出来た俺は屋上に向かうことにした。
最近の屋上には全くと言っていい程に人がいない。
原因は屋上が封鎖されているからだ。
当たり前と言えば当たり前なのだが、転入生は今日学校に来たばかりなのだから、当然知らない訳であってーー屋上に入るドアの前で待っていた。
薄氷アリスは俺の顔を見るなり、
「あなたーーこのことを知っていたんですか?」
「あぁ、知ってたよ」
「ひどい人ですね」
彼女はゴミを見るような目でこちらを見てきたが、渡された手紙を見ると少し納得していた。
「名前がなかったですね。さっきの言葉は訂正します。本題に入ってもいいですか?」
「あぁ、かわまないよ」
彼女は顔の表情一つ変えず、要件をつたえてきた。
「もし、あなたと一緒にいた彼女が血だらけの犬を見てよだれを垂らしていたら、悪いことは言いません。縁を切って、これ以上関わらないで下さい」
「何も知らない奴がいきなり何言ってんだよ?!」
「“知ってる”から言ってるんです。忠告はしました」
俺に何の説明もなく、彼女はそれだけ言うと彼女は俺の前から姿を消した。