5
「那由多、あんたはとっとと歩けないマヌケな亀なの?」
「あぁ亀だね。水中じゃすこぶる早いが、ここは生憎陸地なんだ。
それにお前みたいに騒ぐ奴はチンパンジーぐらいしかいないんだよ。いっそ、亀に合わせた方がいいと思うぞ?」
「あんたねー、本当ムカつくわね。さっさと行くわよ、唐変木(とうへんぼく)」
最後に人を見下す発言をし、なおかつ俺の提案を無視した凛花はズカズカと俺の先を歩いて行った。
凛花と俺はいつだってそうだ。水と油のように決して混ざり合うことはない。
けれど、志奈がいるから俺らはなんとか繋がっていられる。
いつ壊れてもおかしくない吊り橋のような関係を志奈が繋げているから、俺らは一緒に居ても取っ組み合いの喧嘩はしない。
無論、喧嘩したら俺がやられるのは目に見えているので、自分から殴りかかることはしない。
そんな考えをしてる内に、俺達はよく分からない路地裏に到着した。
「今の時代に、こんな所あるのかよ」
「近道なのよ、良いから行くわよ」
この路地裏は大都会な大城市(おおきし)には不釣り合いな程に廃れている。
現にーー錆びて穴だらけのトタンの壁が、この路地裏の現状を物語っていた。
ここ、大城市(おおきし)は世界的に有名な製薬品やバイオ研究を行うBKTが本社を設立してから、周辺には高級住宅地や高層ビルが軒を連ねている。
それに伴ってなのか、周辺には誰もが知っているファーストフード店や映画館など、高校生の俺らが一日時間を潰すには十分過ぎる程、活気に満ち溢れている。
だが、俺達はそんな繁華街を無視して、路地裏を歩いている。
ため息を吐きたくなる気持ちを喉に収めながら、凛花の家であるビルの前に到着した。
「お前の家って、いかにもって感じだよな」
「うるさいわね。さっさと上がりなさいよ!! それに、ここは割と安全なのよ」
「どこがだよ」
と、口では言ってるが、残念なことに俺は何度かここのビルに来てしまっている。
どれも自分からではなく、志奈から焼肉をタダで食べれるというフレコミで来てしまっている。
八割方、頭が丸坊主な人達に男は食えと言われ、動けなくなるまで食わされた。
ーー焼肉ではなく、ケーキバイキングだったけれど。
「なぁ、次こそは焼肉食べ放題にしてくれよ」
「あんたの為にしてる訳じゃないわよ。志奈の為にしてるのよ。勘違いしないでくれる? それより、渡したい物があるからさっさと来なさいよ」
凛花に急かされるように一番上の4階まで連れて行かれた。
でも、たしか、ここはーーーー。
「立ち入り禁止の部屋じゃないのか?」
「そうよ。武器庫だから、立ち入り禁止に決まってるじゃない」
ーーこいつ、何言ってやがんだ?
その疑問が解決しないままに、一丁の回転式拳銃(リボルバー)を差し出された。