《【第一話】それはある日、突然に》
君も一度くらいはこう思い、考えてみたことってないかな?
『この世に、ドラえもんみたいなのが本当に居ればいいのになぁ~……』てさ。
かくいうこのオレ、秋葉(あきば)基哉(もとや)は何度となくそう思った信者の一人だったりする。
今年の初春、高校入試を無事に終え。高校生としての生活をどうにか有意義に過ごし始め、この高校時代を共に過ごすことになるであろうと思われる友人たちも、段々と固定化して来た十二月も半ば。こんな『まさか』な話が舞い込んできた。
『唐突なんだけど、妥当性確認(モニター)やっちゃってみない?』
「モニター??」
『そうそう♪ 何気にうちの会社で作った《試作ロボット》の、一般モニターを募集しよう、って事になってさ。商業的にも売り出すのなら、そういうのも大事だ、ってことで』
「ロボット!?」
夜遅く、家族揃ってテレビを愉しんでいる最中、急に伯父さんがそんなことをお茶目な感じで切り出してきたのだ。
その場に居合わせた家族全員となるお袋と今年中学一年生の彩(ひかり)とオレの3人は、目も点となり。PC用24型LED液晶モニター画面に映し出されている伯父さんを、ドングリ眼で見つめた。
「兄さん。そんな何時《暴走》するかも知れない《R指定》危険物、勘弁してくださいよ。ハッハッハ♪」
『……』
うちの親父はきっと、エ○ァン○リオンを脳裏に浮かべたのだろう? 笑顔でカラカラと笑いながら、そう言った。途端、伯父さんは画面向こう側で実に不愉快そうな顔を浮かべている。
『そうかぁ? 嫌なら他にあたってみるけど。因みに、外観は《こういうタイプ》のロボットなんだけどなぁー……そいつは残念だ♪』
と、伯父がニヤリ顔で見せてくれたそのロボットのPV映像は、誰がなんと言おうと見事なまでの美麗、萌えモデル!
――ぶふぅううううー!!
うちの親父に至っては、鼻血を前方へと撒き散らしつつ、モニター画面に張り付き。
「いや、わかりました! お兄さんの頼みですから、断れませんよぉー!!」
「……」
「……」
隣に居る妹の彩(ひかり)は、呆れ顔に肩を竦めている。因みにオレも、同じだ。
『そうかぁ? じゃあ、「決まり」ってことで♪
あとね。まだコレ《試作機》段階だから、内密ってコトでいい?』
「内密?」
『ああ、色々とこちらにも事情があるモンだからさ。《誰でもいい》って訳にはいかないの。まあ早い話が〝企業秘密〟で、しかも〝国家機密〟だから。取り敢えず、親戚の娘、ってコトにでもしておいてくれる?
ホント頼んだよぉ~♪ くれぐれも目立たないようにお願いねぇ~♪』
とまぁ~そんな訳で、それから一週間後。今まさにこのオレを含めた家族一同の目の前に、ソレは来た訳だが……。『秘密』な筈である筈のそれをうちに届けに現れたのは、一般企業、それも《宅急便》だったので思わず呆れる。
因みに、《小さな羽の生えたフェアリー》が実に愛くるしい事この上ない、最近宣伝され始めたばかりの新興運送会社ライラノ・フェアリーズ運輸。
企業秘密&国家機密だと聞いて、緊張していたのに。肩の力なんて、一気に抜けてしまう有り様だ。やれやれ……。
「なんだよ、コレ。機密も秘密も、既にあったモンじゃないよなぁ~?」
オレの隣に居る妹も、オレと同様に呆れ顔を見せ、肩を竦めてみせたあと。同感とばかりに、深いため息をつく。親父もお袋も、そんな彩と同じ心境らしく目も点で、やはり呆れ顔だ。
が、その運送会社の可愛らしい会社ロゴ・イメージからは想像も出来ないほど似つかわしくない大型のトレーラーで運ばれて来た、ソレは。当初オレ達家族が想像していたよりも、遥かにドデカイ大型のステンレス製の箱なので驚き感心した。が、
『精密機械につき、取り扱い注意!』
『最重要かつ《国家機密》かつ《企業秘密!》』
と……斜めに大きく赤い張り紙が、何枚も至るところにベタベタと張り付けられてある……。
いや、コレはなんと言えばいいのか……目立つこと、この上ない。『語るに落ちる』とは、まさにこのコトか?
未だトレーラー内で固定されていたソレは、内部装備されているロボットアームを用いて、ゆっくりと《搬送用カート》の上へ静かに横向きに降ろされる。と同時に、固定ロックがガチャリと装着された。
何気に格好いい……。
どうやらその搬送用カート自体も、自走式のロボットらしい……女性のアナウンス音声が(しかもどこかで聞いたことのある、声優さんの美声)度々聞こえてくる。操作の方は、タッチパネルで行えるようで『これも何気に機密ではないのか?』と思われるその自走式ロボット・カートを、その運送会社の人は随分と手慣れ様子で操作……。明らかに、プロフェッショナル感の漂う運送会社の人たちで不自然極まりないのだが……。そこは敢えて、突っ込まないでおこう。
それにしたってコイツは、縦の長さだけでも軽く2メートルは超えているのではないか? 厚みも相当にある。大きさ自体は冷蔵庫よりも背が少し高い程度だが。その重量感は、冷蔵庫の比なんてモンじゃない。 迫力と凄みは、圧巻の一言に尽きる。
家族一同、その運ばれてくる想像以上の様子に呆れ呆然と立ち尽くし見つめる中。いつの間にかトレーラーの周りに、ご近所の住人たちが大勢集まり出し、もうからヒソヒソと噂話を始めている。
つまりはこの時点で、『極秘にね?』という約束事は、《破綻確定》した。
オレはこの現状を把握し、諦め顔に苦笑う。
兎にも角にも、その大荷物をうちの居間にまで自走式の搬送用カートにて颯爽と運んで貰い。可愛らしいフェアリーが目印の運送会社の人たちは、ようやく帰ってくれた。
そのあと、オレを含めた家族一同その場で見つめ合い、大きなため息を吐き。このあとご近所には、どう言い訳したものかと相談し合うことにするが。結局のところ出て来たのは、苦笑いくらいのものだった。
◇ ◇ ◇