入学式
◇ ◇ ◇
千人近い生徒がひしめきあっている講堂内は、熱気と緊張で満ちていた。
学年が上がるごとに、その人数は少なくなっていく。
明日から行われる実力試験と、半年後にもう一度行われる実力試験の結果によって、さらにランク分けされ、基準に満たなかった者は退学処分となるためである。
「いや、俺は除外されてるのか」
学園からは推薦状が来たが、何も無試験で入学できたと言うわけではない。
数学や歴史などの一般科目に加え、体力や瞬発力、俊敏性などを見る実技試験もある。
そこで、燐慟はあえて手を抜いてテストに挑んだ。
結果、明らかに入学できない点数になったはずだった。
なぜ、こんな無能が、このエリートだけが通える学園を受験したのだろう、と採点者は思ったことだろう。
だが、燐慟は今、リリアラド学園の制服を着て、入学式に出席している。
結局、試験そのものに意味はなかったということだ。
「は、くだらねェ……」
自分たちの力の偉大さを見せつけるために、榊家を辱めるために推薦状を送ったのである。
だから、燐慟は決心してここに来たのだ。
こんなヤツらに、自分の手の内を晒すようなことはしない、と。
自分たちの実力を侮っていたことを、いつか後悔させる、と──
「あの、ちょっと」
右から声がするが、燐慟は無視する。
「………ちょっと、聞いてますか、榊 燐慟」
ちらとそちらを見やれば、珍しい銀灰色の髪と眼の女が、こちらを見ていた。
やや高めに縛られた、2つの銀灰色の髪の束がゆらりと揺れる。
燐慟より頭ひとつ分ほど低いその女は、ひどく軽蔑的な目つきで燐慟を見ていた。
「俺に何か用か?」
「教室で蓮様と親しげに話していたけど、何を話していたのですか?」
「………お前誰だよ」
すると、女は銀灰色の目を見開き、咳払いをする。
「四ノ宮 チトセです。この家紋で判るでしょう」
「あー、悪い。そういうの興味ないんだけど……」
ヒラヒラと手を振れば、チトセは顔を真っ赤に染め、
「さっさと私の質問に答えなさい!」
怒鳴った。
四ノ宮家と言えば、五大名家の 内のひとつで、神咲家を補佐している名家であり、知らないものはいない。
何より、その銀灰色の髪と眼が、四ノ宮家の者であるコトを示していた。