その周囲の生徒たちが驚いたようにこちらを見、チトセを確認した途端に、何事もなかったように前を向く。
先ほどより静かになったところで、燐慟は言う。
「別に。明日からの実力試験のコトだ」
「そう、ですか」
チトセも納得したようで、前を向く。
「はぁ……せっかく蓮様と同じクラスになれたのだから、積極的にアプローチしていかなければダメです、チトセ。実力試験で、蓮様にわたしの実力を見ていただかなければ………」
と、何やらブツブツ言っている。
実力が全てのこの世界。
ガルゼレスという化け物を討伐し、功績を残すことでしか、その地位は維持できない。
幼少期から実力だけしか評価されなかった者たちは、当然他人を蹴落とすことしか考えていない。
実力が高いほど社会性は皆無なのであるが、この学園には、そういう者たちがひしめきあっていると考えるのは妥当であろう。
「面倒くせェな……」
これから三年間、通わなければならないと考えると、頭が痛くなってくる。
「……で、君たちには大いに期待している。これからの学園生活を楽しんでくれ」
ようやく、学園長の話が終わる。
「続いては、 新入生代表のあいさつです」
司会進行の男がマイクを握る。
壇上に現れた一人の女。
見間違えるはずがない。
あの瑠璃色の髪、透き通るほどきれいな碧眼。
十年近く会っていなくても、瞬時に判った。
それまでのざわめきが嘘みたいに収まり、物音ひとつ聞こえないほど静まり返る。
「こんにちは、神咲 時雨です」
凛と講堂内に澄み渡る声。
背中ほどまで伸びた瑠璃色の髪が、ふわりと揺れる。
「この学園に入学できて、わたしは本当に幸せです。これからの三年間──」
彼女は、神咲 時雨は死んだはずだ。
十年前、自分がこの手で殺したのだから。
今でも忘れない。
あの冷たい頬の感触を、止めどなく溢れる血の、あの生暖かさを。
「どういうことなんだ、時雨………」
燐慟の独白は、その異様なほどの静寂にかき消された。
ミラクリエ トップ作品閲覧・電子出版・販売・会員メニュー