学園から徒歩20分ほどのところに、高層マンションが立ち並んでいる。
オートロック式の入り口を通り、エレベーターに乗り込んで15のボタンを押すと、ゆるゆるとボックスが上昇を始める。
このマンションは、15階と16階の2フロアを貸しきってある。
修練できるようにと、父が配慮してくれたのだ。
部屋は、一人で住むには十分の広さで、荷ほどきしていない段ボールが、まとめて置かれている。
燐慟は手荷物を置くと、かわりに90㎝ほどの細長い袋を手に、部屋を出る。
中身は鞘に包まれた刀だ。
学園に通うことになるとはいえ、修練は怠らないつもりだった。
だが、燐慟の修練は、ただの素振りだけなどではない。
──ガルゼレスの討伐
10年ほど前から、ガルゼレス討伐の一翼を燐慟は担ってきた。
これまでに千を越えるガルゼレスを、この刀で葬ってきたのだ。
ガルゼレスとノアの関係はよく判っておらず、その生体は未だ謎である。
ただ、最近は通常の攻撃かなり効きにくくなっていると言う報告が、相次いでいるらしい。
ノアを使用してのガルゼレス討伐ペア──エスペランサと呼ばれる──は、少なくとも二人以上でなければいけないのだが、今まで燐慟は一人だった。
これからも、そうだろうと自分でも思っている。
──仲間は、いらない
机の上にある小型のイヤホンを右耳につけると、ジジッとノイズが走り、すぐにオペレーターの声が鼓膜をたたく。
『燐慟様、そこから南東に5kmほどの所に、反応ありました。至急討伐をお願いします』
「判った、すぐ行く」
木製の扉に手をかけ、そこで制服であることに気づく。
学園の者に、自分の実力の一片でも見せるつもりはない。
本来は、討伐時専用の戦闘服を着用しなければならないのだが、緊急のため時間も惜しい。
──と、そこまで考えて燐慟は思考をシャットアウトする。
学園から正反対の方向であるし、何よりすぐに済ませばいいことだ。
フロアに出ると、背後でオートロック式の扉が施錠の声をあげる。
と、再びオペレーター。
『ヘリの手配できました』
ヘリでなら、大幅に時間が短縮できるだろう。
すぐさまエレベーターに乗り、屋上のヘリポートへと向かう。
外ではすでに、地平線に陽が落ちようとしていた。
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