街の上に黄を交えて、澄みとおった春の空が開けている。


「燐慟様、こちらです」


プロペラの回転音が、その空に吸い込まれていく。

速度を重視したために小型となったそのヘリに乗り込むと、途端に身体を浮遊感が襲う。



「目標までは?」

「3分ほどで着きます」

「判った」



まぶたを眼球に覆い被せ、余計な思考を払いのける。

走馬灯のようにさまざまな光景が、体の奥を熱い風とともに突き抜けていく。



──誰も傷つけさせはしない



ガルゼレスのせいで、どれだけの人が傷ついたかもしれない。

すでに悲しみに呑み込まれてしまっているかもしれない。

誰かが悲しむのを見たくない。

なにより、あんな思いをするのは自分だけで十分だ、と。そう自分に言い聞かせる。


「燐慟様、まもなく到着です」


ゆっくりと、まぶたを持ち上げる。
飛び込んできたのは、橙一色の空。


痛いほどに光が突き刺さり、瞳孔の収縮が急速に進む。


ようやく慣れてきた視界の眼下には、一体のガルゼレス。

体長3mほどで、全身はくすんだ茶の剛毛に覆われている。

街を見回すその目は恐ろしいほどつり上がり、絶えず口の端からは涎が溢れており、冷たいアスファルトを濡らす。

すでに住民の退去は済んでいるらしく、誰もいない街を、水の上を漂うように彷徨い歩いている。



「猿か、厄介だな」



見た目が進化しているだけでなく、知能も発達しているのだ。


俊敏性も兼ね備えており、容易な相手ではない。


──普通の人間にとっての話だが


壮佳
この作品の作者

壮佳

作品目次
作者の作品一覧 クリエイターページ ツイート 違反報告
{"id":"nov143222275466478","category":["cat0001","cat0004","cat0008","cat0009","cat0011","cat0015"],"title":"\u8ffd\u61b6\u306e\u30ce\u30b9\u30bf\u30eb\u30b8\u30a2","copy":"\u3053\u308c\u306f \u529b\u3092\u5f97\u305f\u4ee3\u308f\u308a\u306b\u5168\u3066\u3092\u5931\u3044\u3001\u904b\u547d\u3092\u306d\u3058\u66f2\u3052\u3089\u308c\u305f\u5c11\u5e74\u5c11\u5973\u305f\u3061\u306e\u3001\u3068\u3042\u308b\u7269\u8a9e","color":"orange"}