「判っているな、燐慟。失敗は許されない」
「はい」
短い吐息を洩らし、悔しさに耐えるように唇を噛む木煉。それから悲痛面もちで、燐慟を見つめる。
「ち、父上……?」
「すまない、燐慟。こんな父親で……」
そう言って、大きな手で頭を引き寄せられる。
権力に抗えず、神咲家の言いなりになってしまっていることに対しての謝罪なのだろう。
「父さん……」
されるがままに、燐慟は木煉の肩に頭をうずめるしかない。
「父親らしいことはなにもできないが、がんばってきてくれ」
「はい……!」
頭上の重量感が消え、引かれるように顔をあげる。
不安な光を湛えてかすかに潤んだ瞳が、燐慟の双眸とぶつかった。
「行ってきます、父さん」
それを打ち消すように、燐慟は凛とした声で告げる。
「あぁ、行ってこい」
木煉の目じりが下がる。眉と眉の間の暗い影はいつしか消え、口元には微笑の兆しが見えた。
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