声の主に顔を向ければ、燐慟は少し驚いてしまった。
ちょうど、彼の着る制服の襟元のあたり。学園の校章の隣に鎮座する、もうひとつのエンブレムがそこにはあった。見るだけで嫌悪感を催すその家紋。それは神咲家であることを、はっきりと主張していた。
「みんなごめん。さぁ、先生続けてください」
狼狽しながらも、女教師は今後のカリキュラムについて、時折蓮を見ながら説明していく。
窓の外を見ようとして、
「ねぇ」
蓮が話しかけてきた。
「君だよ、君。榊 燐慟君。リンドウって呼んでいい?」
人懐っこい柔和な笑顔を色白な顔に貼りつけて、神咲の子息は意気揚々と話しかけてきた。
その碧眼は、爛々(らんらん)と輝いている。
「……どうぞお好きなように」
「えー、テンション低くない? 青春生活初日だよ?」
「元々です」
「ふーん、そうなんだ」
話しかけてくる様子がないので、再び外に目を向けようとする燐慟に、また声がかかる。
「よくこの学園に入れたね。ここ、超名門校なんだよ」
「……知ってます」
「すごく勉強したでしょ? 僕もすごく疲れちゃってさ。中学はどこ?」
「………」
他愛のない会話。これからの高校生活への期待に胸を膨らませて、歳相応にはしゃぐ神咲の子息。
答えるのが億劫で、鬱陶しげな目を彼に向ければ、困ったように肩をすくめ、蓮は言う。
「あは、ごめんごめん。ちょっとテンション上がっちゃってさ」
「……いえ」
「僕らタメなんだし、敬語止めてよ」
「すみません。でもあなたのようなお方にタメ口は……」
「なぁ、リンドウ」
あいかわらずの笑みを浮かべながら、先ほどと変わらぬ声音で燐慟の名を呼ぶ蓮。
そして、なぜか近づいてきた。
息づかいが聞こえるほどの距離になったところで、再び蓮が耳許で低い声を発する。
「つまんねェ嘘、吐かしてんじゃねェよ」
冷たい視線は、ぞっとするほど異様な迫力に満ちていた。
燐慟は思わず目を細め、
「そ、れは一体どういう………」
真意を探ろうとするも、蓮がそれを遮って言う。
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