やがて華具夜も十五となり、天帝の片腕として公務に就く事となる。
月の天帝の血族は、天力と呼ばれる超常的な力を宿しており、それを民のために行使していた。天帝と一族の天力こそが、月を天界と呼ばせるほど栄えさせる源である。
華具夜が公務に就いてから、天帝は常に公人として振る舞い、彼が幼かった頃のように優しさを見せることがなくなっていた。それが自分を後継者として一人前にさせる為のものだろうと察してはいたが、それでも華具夜は寂しさを覚えずにはいられなかった。
いつの頃からか、華具夜は公務を終えると、内庭にて黒い宇宙に浮かぶ地球の姿を見上げるようになっていた。それは天帝である彼の父親が、そこで地球を見上げる事を好んでおり、時に姿を現す事を知ったからだ。
また彼の実の母親が父親と出会ったのもその場所であると、周囲の者たちから聞かされていたのも影響している。
故に彼は期待した。
その場に通えば、忙しい父親と公務以外で遭遇できるのではないかと。
ある日、唐突にその願いは叶った。
彼の意図したものとは少しちがう形で。
中庭に現れた天帝は、その隣に他人を見下す冷たい目の女――継母を連れていたのだ。
華具夜はとっさにその身を隠した。
あんなにも会いたいと思っていた父がすぐそこにいるにも関わらず、たったひとりの邪魔者に無意識のうちに屈したのだ。
継母は誰が現れるとも知れぬ場で、無遠慮に天帝にすり寄る。その遊女のような振る舞いに華具夜は眉をひそめた。
「何故、天帝はあのような振る舞いを許すのか」
継母の暴挙はその振る舞いだけには留まらないのだ。
我が儘な彼女は、気まぐれで幾人もの使用人達を解雇したり、豪遊で天帝の私財を浪費したりする。身に着ける衣は派手ではあっても、優雅さの欠片もない。あまつさえ浅薄な分際で、政務にまで口を出そうとするのだ。
政治上の成り行きとはいえ、あのような女が天帝の妻の座に居るなど、華具夜にとって不快極まりないものだった。
故に彼は幻想に捕らわれる。
「もし私が男ではなく、父上の子でなかったとしたら……」と。
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