地上に流された幼い華具夜は、流れ着いた竹林にて眠りにつく。そこで幸いにも良き地上人に拾われ、育てられる事となった。
幼子となり記憶を失いし華具夜であったが、年月が経つにつれて元の姿を取り戻し始める。
その男とも女ともつかぬ、怪しくも美しい容姿に、地上の人間たちも天人たち同様に魅せられた。
されど華具夜がその相手に心を開く事はなかった。幼子に戻されながらも、彼は天帝への強い想いを完全には手放さなかったのだ。
華具夜の頑強なる想いは、天帝の施した封印を日々弱めていく。それにつれ記憶も蘇り始める。だが、その事は彼にとって切ないことでしかなかった。天に昇る月を見上げる度、その地を治める父の姿を思い出し涙するのであった。
そんな彼の姿に心を痛めた五人の公達が華具夜へと語りかける。
「あなたのその涙を乾かす為、自分たちになにか出来る事はないか」と。
地上で地位を持つ公達と言えど、天人である華具夜からすれば、未開地の原住民に等しい。そんな彼らにできることなどたがかしれていた。
「せめて私の天力が回復すれば……」
そう考えた時、彼はある計画を思いついた。
そして急いで五人の公達を集めて告げる。
「五つの宝を集めてください。そうすれば涙は止まり、私はどなたかの腕の内に収まるでしょう」と。
やがて華具夜の願いを聞き届けた公達は、彼の真意も知らずに己が命と財産を賭けて宝を集める。
そして眼前に揃えられた五つの宝を前に華具夜はその頭を深く下げ礼を言った。
華具夜は集められた五つの宝の力を使うと、自らにかけられた天力の封印を解き、天帝の長子としての姿と天力を取り戻す。
その姿を見た公達は、それまで以上に熱烈な言葉を華具夜へと贈った。
されど華具夜はそれに一切応えなかった。
ただ「いままでご苦労であった」と、努めて冷たい言葉を投げかけると、育ての親である翁の元へと歩みを向ける。
そして、短く別れの言葉を告げると、天力で身体を宙へと浮かせた。
「ひどい、我々のものになってくれるのではないのですか!?」
「私が帰るべき腕はただひとつです」
公達の引き留めの言葉に短く返すと、華具夜はそれっきり振り返りもせず満天の月へと昇った。
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