天力を行使し、華具夜は地球から月までを一気に駆ける。十万里の遠き道のりも、天帝に会えると思えば苦ではなかった。
だが、十年ぶりに帰還した月の都は、彼の知る姿ではなかった。
街は荒れ果て、民たちは活力を失っている。
華具夜は衣を被り人相を隠すと、道行く天人にどうした事かと尋ねた。するとひどく疲れ果てた様子で答えが返される。
「天帝が病に倒れ、その子が代理と成ったのだ。税は上がり治安は乱れた。それにいままで天帝の天力で補われていた数々の事が代理になったとたん滞り始めたのだ」と。
代理となったのは華具夜が地球に流された直後に継母が産んだ子であった。まだ十にもならぬ幼い子に治世などできるはずもない。華具夜は事の裏に権力をほしいままにする継母の陰を感じとっていた。
継母の暴虐など華具夜に見過ごす事などできるはずはなかった。
だが、天帝の子とは言え華具夜は地球に流された罪人。そのまま宮廷に踏み入ることはできない。そこで華具夜は幼き頃によくしていたように、こっそりと宮廷に忍び込んだ。
天力を使い見張りの兵を眠らせると、天帝の寝室に辿りつく。そしてそこで変わり果てた父親の姿を見つける。
太陽の陽を浴びた地球より、なお美しかった姿はすっかりと衰え、見る影もないほどであった。身体はやせ細り、ところどころに紫色の斑点が浮かんでいる。
「父上……」
その手を握り、涙をこぼす華具夜。
するとその時、ふと天帝が目を開けた。
そして再会した華具夜を見た彼は、その両の目から涙を溢れさせた。
それは華具夜が初めて見る父の涙であった。
天帝は自らの立場のため、子である華具夜を守れなかった事をわびた。そして自らに恨みを残しているのならば、この場で首を絞める事を許した。
華具夜は天帝の勘違いに大きく首を振って否定する。
「恨んでなどいません。ただもう一度あなたのお顔を拝見したく、戒めをやぶり戻って参りました」
そう言って互いの唇を重ねようとする。
だが、そこへ再会の喜びを邪魔する者が現れる。
それは煌びやかな衣装に身を包んだ継母であった。
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