衛兵を連れた継母は侵入者が華具夜であった事を驚くが、それでも構わずに彼を捕らえるよう命じる。
衛兵は天帝と彼の前妻の面影を宿した華具夜に武器を向ける事を躊躇った。
命令に従わぬ衛兵に継母は更なる命令を重ねようとするが、それを華具夜は遮る。
「捕らえるべき咎人はその者である」と。
継母は華具夜の言を狂ったのかと一笑するが、彼はその理由を口にした。
「我が父君で在られる天帝を、このような病にしたのはその女である」
その発言にその場にいた誰もが動揺した。
その隙を突き、華具夜は天力で継母の隠し持っていた小瓶を奪うと、これこそが証拠であると晒す。
「それは毒物ではなく薬である」
嘯く継母に「ならばお主が飲んでみよ」と華具夜は迫る。当然、継母はそれを拒んだ。その様子に、確信を得た華具夜は行動に移る。
「貴様が飲めぬと言うのなら、私がこの身を以っておまえの罪を証明してやろう」
そう言って、皆の前で小瓶の中身を口に流し込む。
するとたちまち華具夜の身体に天帝とおなじ紫の斑点が浮かび、その身を苦しめて膝をついた。天帝が少しずつ与えられた毒薬を一気に飲み干したのだ。それも無理ない。
「これで真相は明らかになった。その者を捕らえよ」
我が身を持って継母の罪を暴いた華具夜に衛兵達は従った。継母は向けられた槍をものともせず、衛兵から剣を奪い満身創痍の華具夜へと襲い掛かる。
華具夜はとっさに天力で抵抗しようとするが、毒に冒された身体は天力を発することができなかった。
――もはやこれまでか。
覚悟を決める華具夜。だが悔いはなかった。継母の手に掛かる事こそ不本意であるが、それでも彼女の罪を暴き、天帝の役に立って死ねるのだ。彼にとって最高の死に様とも言える。
――あとは残る者たちに任せよう。あの女さえ排除すれば都の活気も戻るはずだ。
そう信じ瞼をとじる。
だが継母の振るう凶刃は彼の元に届くことはなかった。病床の身を振るい立たせた天帝がその身を使って庇ったのだ。
「!!」
華具夜の悲痛な叫びは声とならない。
天帝は力を振り絞り、手の内に剣を呼び寄せる。そして賊と成り果てた女の身体を斬り裂く。
天帝は血の海に沈んだ継母の姿を一瞥すると、血に濡れた剣を捨てる。
最後の力を振り絞り、床に伏した息子の身体を抱え上げた。
そして、華具夜の口を通して、息吹と天力を共に流し込む。すると華具夜の身体に現れていた斑点が消え始めた。
だがそこで力尽きた天帝は崩れ、目覚めた我が子と言葉を交わすことなく瞳を閉じた。
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