◆ 占いの町シエルナ
ごめんなさい
ごめんなさい
私を守る その大きな背中を見て
その傷だらけの姿を見て
嬉しいと思ってしまったの
◆ ◆ ◆
シエルナの町は『占いの町』。
恋愛・失せもの・人探し。
魔導士の先駆けとも言われている占い師らが自らの能力を高めようと集い、切磋琢磨しあったのがこの町の起源と言われている。
シエルナの町に辿り着いた六人は実際に、町の至る所で『占いしてます』や『百発百中』、『失せもの専門どうぞこちらへ』という看板やら立札やらがあちこちに掲げられているのを見ていた。
白い街門から伸びる表通りは瀟洒な煉瓦造りの家々が並んでいたが、よく見れば、民家に混ざって占い屋敷があったりするのだ。
それだけでは飽き足らず、路地裏を覗けば小さなテントや掘建て小屋を構えた占い師もいて、ミナミなどは目を輝かせてそれらを丁寧に眺めていた。
そういった占い師たちとは別に、一般人が出入りするような場所には姿を現さず、高級宿泊施設や上等な飲み屋が連なる、街の中でも特に奥まった場所で商売をする占い師もいる。
何故なのか、とミナミがキーナに問うたところ、そういった場所には各国の中枢を担う人物らが集まるのだ、という答えが返された。
表通りにいるような占い師たちは能力の低い、口先三寸で観光客を満足させるような者たちがほとんどだとキーナは言う。逆に能力の備わった、いわば本物の“占い師”たちは暗がりへと潜み、様々な国の政治に係っているのだと。
キーナはシエルナまでの道中、出会った旅人達から情報を得るようにしており、それゆえ事前にそう言った知識も埋まっていた。ケイヤも常にその傍に居たので、彼女と同程度のことは分かっている。
旅人はあくまでも“うわさ”だと笑っていたが、キーナはそれを笑う気にはなれなかった。
たしかに、自分が暮らしている国の政がたかだか占いに左右されているなどと信じる者はあまりいないだろう。しかし、魔術や占いを少しでも齧ってる者からしてみれば話は別だ。
占いとは、大雑把にいえば“先読み”に特化した能力のことである。
人や国、自然のこれからを“視る”ことができる力であり、占うことが出来る者を占い師と呼ぶ。
力のない占い師は個人の先――つまりは未来の光景をわずかに垣間見るだけであり、それを補完するために様々な情報とよく回る達者な口先が必要になる。
しかし、優れた占い師は口先など必要ない。ただ“視たまま”の真実を告げるだけなのだ。
占い師の“先読み”の力は、時を司る精霊やその上位存在である時の神の力を借り受けて発動している、ある意味魔法と変わらないものなのである。
時の神の力は強大で、それゆえに厳格でもあり、人に力を貸すことはほとんどない。その力を借りる魔法も発動させることはかなり難しく、使い手もほとんどいないのだ。
時の神に愛された占い師の力は非常に稀有だと言えた。
どういった人物が時の神の寵愛を受けられるのかは不明だが、無欲な人物にこそその力が与えられるのではないだろうかとキーナは思っている。
難しいことは分からないとばかりに首を傾げていたミナミだったが、本物の“占い師”がいるのならばぜひ自分も占ってほしいと探す気にはなった。
彼女の場合、マサアとの相性を見て貰うために恋愛専門の占い師を探していたのだが……
「そっちいたか?!」
「いないーっ!! あ、キーナちゃんそこさっき探した!」
「あら。あっちの通りは?」
「オレが行ったよ。ケイヤのほうはどうだ」
「だめだ、見当たらん」
ばらばらと、あちらこちらの通りからミナミの元へ五人が駆け集まる。街の中でも特に人通りの多い場所であるため、周りの者たちが何事かと彼女たちに視線をやるが、六人はそれらを気にすることもなく、互いの成果を口々に告げる。
しばらく前から走り回っていたせいで、普段は汗をかかないケイヤですら、額を薄らと湿らせていた。
「んもー! 何処に行ったのよっ!」
「あの女はどうしても見つけて話を聞いておきたいな」
ミカノの悔しそうな言葉を受け、タヤクが全員に聞こえるように呟く。
そう。
ミナミら六人はここ二日間ほど、とある人物を探していた。
それは、シエルナに辿り着いた初日のことであった……――