限界点
街道を逸れて、人気のない林の中に隠れた。
「ちょっと待ってて」
パピーをおろして、未来を予測しようと試みる。
討伐隊より先にドラゴンと接触出来たら、それに越した事はない。
例えそれがいかに危険であろうとも、後手に回って最悪の事態が起きる事に比べたら希望がある。
しかし中々上手くは行かない。
見た事もない対象の未来。そのうえ現れるであろうと予測した場所の範囲は広い。
町? 街道? 森? 再び山の麓の可能性もある。場所が当たっていたとして、それはいつか?
せめてどれか一つが明確なら、これ程苦戦はしなかったかも知れない。
次々と勘を頼りヤマをはるが、上手い具合には視えて来ない。
「……っく」
焦る気持ちが、コレットの許容量を超える程の能力を使わせてしまった。
ズキンズキンと脈打つ音が耳の奥で響く。猛烈な痛みに顔が歪む。
足元からは不安気な視線。
「そろそろ……現界、か……」
この予知能力は、ただでは使えるものではない。そもそも日に何度も使える代物じゃない。限度を超えれば、強い頭痛が警告として襲ってくるのだ。それはコレットも良くわかってはいたが、もしかしたら次で、またその次で、見えるかも知れない。そうして繰り返してしまった。
もし視えなければパピーは親をなくす事にもなり得る。この状況が普段冷静なコレットを追い込んでいた。
立っているのも辛く、しゃがみ込んで木に寄り掛かる。
震える手でパピーを撫でてやると、心細そうに小さく鳴いた。
これで最後。
そう決めて、息を止めてぐっと腕時計を握りしめる。
「……!!」
それは一瞬だった。だが、確かに見えた未来。赤く大きなドラゴンに、この小さなパピーを返す事の出来るかも知れない。一筋の光りに似た未来だ。
「視えた……よ、パピー……」
パピーにそう報告したのと同時に、コレットの身体は音を立てて倒れた。頭を殴られたような激痛に襲われ、意識は強制的に落とされたのだ。
「くぅん……くぅん……」
後に残されたパピーは小さく鳴きながら、コレットの回りを右往左往していた。時折頬を舐め、擦り寄ってみるが反応はなく、泣きたい気持ちを堪えながら。
だがしばらくすると、右往左往はキョロキョロと辺りの様子を伺う仕草に変わった。
呻るような、低い低い音が聞こえるのに気付いたからだ。
しかもそれは一つではない。
まるで後ろ手でコレットを庇うように羽根を広げ、周囲を見渡した。
自分の臆病を必死で抑えつける。この優しい人間、コレットを守ろうと、ただそれだけだった。