対野犬

 威嚇しながら現れたのは、此処を縄張りにしているのであろう2頭の野犬だった。
 パピーの何倍か大きな身体。
 内心震え上がりながらも、逃げ出す事は考えなかった。

「わん! わん!」

 低い唸り声とは対照的なパピーの高い声が響く。
 体格の差があるうえに1対2。戦い方もわからない。後ろにはコレット。
 あまりにも分が悪いが、だからと言って野犬たちが引いてくれる訳がない。
 ドラゴンと言う種族に対しての本能的な警戒心からかすぐに襲っては来なかったものの、隙あらば、と狙いを定めてくる。

 しばしの睨み合いが続く。

 そう思われたが、パピーの集中力はそれほど持たなかった。

 コレットが身じろぎした気がして、そちらに意識を向けてしまった。
 その瞬間、力強く地面を蹴りパピーへと襲いかかる2頭。
 すぐに頭を戻したが、既に牙を剥き出しにした大きな口が視界いっぱいに広がっていた。

「わぅん!?」

 反射的に一歩飛び退き、開いていた両羽根を操り身体を捻ると間一髪、2頭まとめて弾き飛ばされていた。
 羽根は見た目よりも随分と頑丈に出来ていた。

「きゃいぃん!!」

 野犬たちは地面に叩きつけられ情けない声を上げるが、パピーも同様だ。
 弾き飛ばした反動で自らもグルングルンと勢いを付けて転がり、コレットがもたれる木に盛大にぶつかった。

「きゅうん……」

 目が回りくらくらとする頭。しかし、まだ油断ならない。顔を上げ野犬の方へと歩き出す。

 その後ろで、コレットも目を覚ましていた。

「……ん……」

 横になったまま薄眼を開けると小さな背中がある。

「……え……?」

 さらにその先に野犬の姿を捉えた。

 1頭は先程の一撃で戦意喪失したようだったが、別の1頭はまだ諦めていないらしい。
 いや、パピーを正面切ってしとめる事はもう考えていないのだろう。もう一方の獲物、コレットが標的だ。

 野犬は素早くパピーの射程範囲を避けながら迂回して、コレットへと走り出す。

「え……、え!?」

 やっと状況を把握したコレットは、腰につけた銃を構えようとするが、慌てて手が滑る。

「わん! わん!」

 パピーも野犬の目的に気付いたが、その速さには追いつけない。

「うわ、わ……!」

 目を瞑る事も出来ずに息を飲んだ。

 パピーは叫ぶ。悲痛なまでに懸命に。

「わおぉぉぉおん!!!」
「!!」

 目の前の光景が、一瞬理解出来なかった。
 腹の底から発せられたそれは、腹の底にあった魔力まで放出したらしい。
 細くはあるが、口から炎を吐き出し野犬の尻尾を焦がしていた。

「きゃいん! きゃいーん!」

 野犬は尻尾を炎に変えたまま逃げ出し、もう1頭も後を追っていった。

 パピーもそれを見送ると気が抜けた様に腰を落とした。
 戦うのも、自分の口から炎を出すのも初めての経験。
 ゲプっと焦げ臭い息を吐いてから、誇らしげにコレットを見る。

「あ……」

 パピーの炎に放心状態になっていたコレットだが、それは自分の為にやってくれた事。守ってくれた事実に変わりはない。
 いささか憔悴しながらも、ふわりと笑った。

「ありがとう、パピー」
「わん!」

 礼に対し満足気に応えると、トテトテと近付きコレットに身を寄せた。

創
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