懐の中

 しばらく林の中で休憩し、再び懐にパピーを隠す。幸い他の人間が騒ぎに気付いた様子もない。
 街道に戻る頃には陽はだいぶ傾いていた。
 橙に染まる雲は、大きな羽根のようにも見えた。

「もうすぐ会えるよ」
「わう?」
「さっきね、視えたんだ。明後日の夕方、湖の近くに来る」

 覗き上げてくる瞳。

「赤い大きなドラゴンだ。多分パピーを探してる」
「わん!」

 どうやら心当たりがあるようだ。

「嬉しい?」

 聞きながら服の隙間から撫でてやる。すると気持ち良さ気に目を細め、小さな返事が返ってきた。

 一つ希望が見えた所で、今度は目先の悩みが口をつく。

「さて。今日はどこに泊まろうか」

 そうは行っても、選択肢はないに等しかった。
 先ほどまでは町で宿をとるつもりでいた。幸いパピーの鳴き声は犬そのものだし、無駄吠えもしない。姿さえ隠せば何とかなると踏んでいた。
 しかし、炎を吐くとわかった以上そうは行かない。

「野宿……かな」
「……くぅん……」

 若干の疲弊が混じった声色に、パピーまでもつられたようだ。

「ああ、ごめん。大丈夫だよ」

 たった1日もたたない間に、随分と互いの感情に敏感になったようだ。
 コレットは幼子をあやすのと同じ高さで声を掛けると、歩みを早めた。

 町の入り口が見える。明るいうちにその近くで比較的安全な寝床を探したい。
 そこで火を焚いていれば、いくら夜でもそうそう何かに襲われたりはしないはずだ。

「ま、何かあったら今度は俺が守るから」

 意識のなかった、野犬に襲われた時とは違う。銃の扱いには長けているし、野宿の経験もある。
 今度、がないに越した事はないが、そう意気込んだ。
 しかしいつもの返事がない。

「ん?」

 早歩きの揺れが心地良かったのか、胸元を引っ張ると寝息が聞こえてくる。
 思わず綻ぶ口元に軽く手をあて、コホンと咳払いした。

 胸元を締め直し、町の入り口に向かう。
 寄り道だ。
 さすがに寝ながら火を吹いたりはしないだろう。
 カジノはお預けだが、昨日稼いだ金は手付かずのまま。この隙に必要最低限の買い物くらいは済ませられる。主に火を一晩焚き続ける為の道具と、一番は食べ物だ。
 何しろ朝からの空腹。パピーも腹が減っているに違いなかった。パピーの好物を考える。目覚めた時に喜べば良いな、と。

創
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