危機的
胃がひっくり返って出てくるんじゃないかという程の、吸うのも吐くのも不規則な荒い呼吸。これ以上全力で走っていたら、泡を吹いて倒れていたかも知れない。パピーもその様子に危機を感じ、懐から飛び出した。
パピーの分少し軽くなったが、休む事は許されない。
ここまでくれば後少しだ。街道からそのまま林の中の泉へと続く人口的な道。へたり込みたいのを我慢して、パピーと共に進んでいく。
間も無くすると、林が開けた場所に泉が見えてきた。
「!」
そのさらに奥には、ドラゴン。と、懸念していた討伐隊の姿があった。先ほど視えた未来が、現実になっていたのだ。
間に合わなかった。
そうも思ったがまだだ。
ドラゴンは生きている。
しかし事態はあまり良くない。ドラゴンは遠目からでもわかる程に荒れていた。
4人の討伐隊を相手に、パピーが野犬に放ったものの何倍も太く大きい炎を浴びせていた。
討伐隊はそれを盾で防ぐ事に躍起になっているが、いつ攻撃に転じるかわからない。いても立ってもいられない。
まだこんな力が残っていたのか。
「わふっ?!」
パピーを抱きかかえると、自分でも驚く程の速さで駆け出していた。
討伐隊はまだ気付いていないが、ドラゴンはコレットを視界の端に捉えていた。
しかしコレットたちが到着する前に一悶着あったのだろう。完全に冷静さを失った狂気じみた瞳は、幼い同胞の姿を認識していない。パピーもパピーで、急に走られた影響で目が回り見えていない。
「ド……! ドラゴン!」
肩で息をしたコレットが、ドラゴンの前に躍り出た。
ドラゴンは話しを聞けないほどの怒りに任せ、コレットに向き直り息を吸い込む。
「な、何をしているんだ!」
「青年よ、危ないぞ!」
討伐隊の何ともつかない助言は聞き流す。
パピーと同じ種族なら言葉も通じるはず。賢いドラゴンの事だ。パピーを見せれば落ち着くと思っての行動だったがそもそも認識さえされていない。
それどころか炎の餌食になる直前にある。
コレットの算段は外れてしまった。
「パピー! 息止めて!」
抱えたパピーの顔を胸に押し当て、泉の中へ飛び込んだ。なるべく深く、身体を水の中へ落とす。上では、赤い線が揺れる水の表面を走っていた。ドラゴンが炎を吐き終わるまで堪えたい。
――ぶはっ
なんとかギリギリまで堪え、水面から顔をだす。パピーもきちんと息を止めていたらしく、上がった瞬間に空気を取り込んでいた。
討伐隊は民間人であるコレットを助ける訳でもなく、ポカンと呆気にとられていた。
そんな人間はお構いなしに、水の中で足のつく場所までたどり着いた。コレットはパピーを頭上に抱えあげ再び叫ぶ。
「ドラゴン! お前がここにいる理由は、この子じゃないのか!?」