不意打

 いきなり走り出され、水に飛び込み、宙に抱え上げられた。そんな一連の流れにパピーの頭はついていけなかった。
 キョロキョロと左右を見渡し、コレットを見下ろし、最後に真正面に赤いドラゴンが居るのに気付く。

「! わん!!!」

 コレットからの懸命な叫びとその鳴き声に、ドラゴンは瞳から怒りの色を無くした。

「あなたは……!」

 パピーに目を留めたドラゴンから発せられたのは、美しい女性の声だった。

「コドモドラゴン……!」
「わん!!」

 ドラゴンの呼び声が合図だった。コレットの手から小さな羽をばたつかせ、ギリギリ泉の際へと降りたつ。
 コレットは脱力しながらそれを見守っていた。
 ドラゴンは戦意を失くし、パピーと再会した。悪い未来だった現在は、変わったように思えた。しかし、根本がまだ解決されてはいなかった。
 自らも泉から這い出ようとした時だ。ふと時計に目がとまる。
 どうやら未来はどこまでもコレットを一息つけさせたくないらしい。ほとんど無意識下のうちに、目の裏にまた新しい未来が映し出された。

「くそっ!」

 心の中でも悪態を吐きながら、ずぶ濡れのまま、駆け出した。
 走りながら腰に引っ掛けている銃に手をかけるが、意に反して滑り飛ぶ。勢いを付けて回転しながら先に行く得物。飛びつくように身体を斜めにし手を伸ばすと、指に引き鉄がはまった。
 後ろにドラゴンとパピーを庇いながら落ちていく。
 崩れる体制でも腕を伸ばし、一瞬のうちに正確に構えた。視線もブレる事なく、銃口は標的を捕らえる。

 弾丸は放たれた。

 仕留めたのは、盾に隠れた隙間から覗いた討伐隊の手元。ドラゴンを狙っていた銃だった。
 泉に着いてからと言うもの、結果としてドラゴンを守るというよりも討伐隊を炎から助ける為に動いたような物だった。それなのに使い物にならないと思われた討伐隊が、隙をついてこんな時だけ仕事をするのだからたまったものじゃない。
 金属の耳に触る音が響く。弾丸が命中した銃が弾き飛ぶのと、コレットが地面に落ちたのはほとんど同時だった。

 驚きと落胆の声を上げる討伐隊に、冷静さを取り戻した美しい声が語りかける。

「人間たちよ。私はもう争う理由がありません」

 ドラゴンはパピーに頬を寄せ、幸せそうに薄く目を閉じた。パピーも寄り添うと、鼻にかかる声で鳴いた。
 コレットは寝転びまだ落ち着かない動機に喘ぎながらも、優しい表情で見守っていた。

 討伐隊は訝しげにコソコソと何やら相談している。その様子に湯気混じりのため息がつかれた。

「あなた方が私の話しも聞かず、不躾に襲ってきたのも些末な事。今一度話し合っても良いと言っているのです」

 高慢な喋り方にも聞こえるが、思う所があったのだろう。観念し、武器を置く。盾の影にはなったままだが、話し合いが始まった。

創
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