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1.
(私を一人の人間として扱ってくれる。日本……良いな)
日本人の温かい対応に感心しながら、京都行きの新幹線に乗り込む。
運良く席が空いており、そこ席の窓からは日本の富士山が見える。
(あれがマウント富士……綺麗)
新幹線の揺れに導かれ、マルシェは徐々に夢の中におちていった。
――――――――
――――
――
「マルシェ、マルシェ起きなさい」
母が肩を揺らす。
「うん?」
目を擦りながら、少女は身体を起こした。
「ほら、エッフェル塔が目の前に」
「わー!」
車窓から見える、そびえ立つ塔は太陽を反射し輝きを放っていた。
しかし、彼女は知らなかった。この日が家族との最後の思い出になろうとは。

「いっぱい買ったね」
「うん!」
母親の問いに対し、力強く頷き返す。
「おーい。待ってくれよ」
母と娘から遅れて、父親と息子の二人が大量の荷物を担ぎ、よたよたと着いてくる。
「お父さん、シルバ、遅いわよ」
「そうだよー、おっそーい!」
おいでおいでの手招きをするマルシェ。
「待ってく――」

「キャアアアアーーーー!」

男性陣の嘆きの声は突然の悲鳴によってかき消される形となった。
「なに?」
「なんだ?」
「どうした?」
街中に人々は一斉に悲鳴の方向に視線を向ける。
マルシェ一家も例外ではなかった。
マルシェの両親ははっとし、咄嗟に我が子の視界を塞ぐ。
「見ちゃダメよ!」
「見ちゃダメだ!」
そこには胸を喰われ、大量の血を流している死体と大量の魔物。
「あなた早く逃げましょう!」
「ああ……ぐ……にげ……ろ、マル――」
魔物達に背を向け走り出した。母親に対し、なぜか父親が追ってこない。
「どうしたの、あな……」
振り向いたとき、あの優しい父親の面影はなかった。血がまるで水溜まりのように飛び散り、中央に父親の顔を頬張る魔物。手足は千切られ、フランスパンを食べるかのごとく頬を膨らませる。
「いやあああああああ……」
無惨になった夫を見るや、腰を抜かす母。
ぐちゅぐちゅと腕をしゃぶり、母親に近づく魔物。
「おい、マルシェ! こっちだ!」
「でもママが……」
「早く!」
母親の心配をするマルシェの手を引き、素早く物陰に身を潜める二人。
バリバリと骨を噛み砕く音が辺りに反響する。
「怖い……」
「大丈夫だ。マルシェ。お兄ちゃんがついてる」
怯えるマルシェを優しく抱きしめ、頭を撫でる。

「ん? 音がしなくなった?」
血の匂いが混じるものの、辺りには人間どころか魔物の気配すらしなくなっていた。
「居ない……」
シルバは身を起こす。
「どうなったの?」
「誰も居なくなったんだ。マルシェはここで待ってろ。すぐ戻る」
「どこ行くの? ねぇ?」
「大丈夫。人を呼んでくるだけだから」
「すぐに戻ってね。すぐにだよ?」
「わかった」
笑顔を浮かべ、シルバは血まみれの広場を横切って姿を消した。

これがシルバの姿を見た最後だった。

設楽夏樹
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設楽夏樹

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