2

独りぼっちになったマルシェはある組織に拾われた。
『シャレール』
反政府組織の筆頭格で、今回の魔物襲撃主犯。
その組織で行われたことは、まさに非道だった。
人を使った実験。
人格を無視し、人を人と扱わない。不要になれば捨ての繰り返し。
拾われた彼女――マルシェも実験の検体となった。
彼女は耐えた。否、耐えてしまったが正しいのかもしれない。
結果――彼女は不死身になった。正確には心臓を攻撃されなければ生き続けられる半不死身となった。
だが、不死身だからといって特別扱いはされない。むしろ、逆。
人間として扱われない。
「なに突っ立てんだ! さっさと動け! ポンコツ!」
ビシッ!
不死身をいいことに鞭で叩き、過酷な労働をさせ、自分たちは楽をする構図が出来ていた。

「はぁ……今日も終わった……」
マルシェは溜息を吐きながら、牢屋の中にあるベッドに座る。
「やりますか……」
ベッドの下から取り出したのは、分厚い魔道書。
シーツの切れ端で作ったしおりを外し、12時の消灯時間まで読みふける。
そして朝4時の起床。この生活リズムが定着しつつあったとき、本にある項目を見つけた。

『分身と透明化』

「これができれば……ここを抜け出して、お兄ちゃんを探せる」
(魔法は得意じゃないけど……やるっきゃない)

コツコツコツ――
看守の靴音が遠ざかった午前2時。
(急げ……後2時間……)
手早く、音が出ないように錆び付いた南京錠に手をかざし、外す。
ギギッ
(やばっ……)
幸い、いびきがうるさい人が居てそこまで響かなかった。
(よし、分身。後はお願い)
マルシェ自身は透明化し、出口まで走る。

(二人居る)
出入り口にはライフルを持った門番が二人。
慣れない魔法で既に透明化は切れている。
(分身は残ってますように!)
そう願うしかなかった。
(どうやって切り抜けるか……63ページに眠りの項目があったような……うーん)
記憶をほじくり返すが、モヤーンとしたイメージしか浮かばない。
(ちょっと危険だけど、痺れで代用するか)
両手を前に合わせ、呪文を唱える。
周りに微かな黄色の粒子が漂い始め、門番の元へ。
「おいなんか、良い匂いがあぁぁ」
「ほい(おい)、ほうらって(どうなって)」
二人は呂律が回らなくなるほど、痺れたようだ。
(今だ!)
マルシェは両腕で顔を隠し、全力で門を駆け抜けた。
「「はぇて(まて)」」
門番のことは気にせず、走った。とにかく走った。

森を駆け抜け、ストリート街へ向かった。

設楽夏樹
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設楽夏樹

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