3
雨が降っている。
マルシェの服装は囚人服、替えはない。
森を裸足で抜けてきた影響か、けがをした。
ストリート街のガラス片やオイルが傷口を撫でる。
「はぁ……はぁ……痛い」
空き地の隅に座り込む。
身体も雨に打たれ冷え切っていた。
お腹も空いている。
「ここで少し……寝よう……」
マルシェは目を閉じた。
パチパチ――
ロウソクの火花が弾ける音で目が覚めた。
「うん?」
「起きたか」
木の机で作業をしている少年は振り向かず、マルシェに尋ねる。
「ここは?」
「起きなくても良い。疲れてんだろ」
「頭痛い……」
「風邪を引いたんだ。休んだ方が良い」
「あなた、名前は?」
「パウロだ。よろしく」
振り返ったその少年の笑顔はマルシェの兄、シルバを思い出させた。
「そうだ! こんなことしてられない。探さなきゃ!」
ベッドから起き上がると同時に、宙を浮く感覚に襲われる。
「ほら、言わんこっちゃない。人の親切は素直に聞くもんだ」
「……わかった」
「そういや名前……寝たのか」
すうすうと寝息を立て、子猫のような寝顔を見せた。
朝――
ベッドから起き上がると昨日の目眩はせず、机に牛乳、食パン、サラダと置き手紙が用意されていた。
『悪いがそれしか用意できなかった。後、着替えが必要だろう? 食べ終わったら隣の部屋に来てくれ』
「ありがとう」
マルシェは呟いた。
「来たか。悪いが女物は妹のしかなくてね。合わないかもだが、我慢してくれ」
「大丈夫よ。ありがとう」
ジーとパウロを見るマルシェ。
「あ、悪い」
そう言って、部屋を出る。
「妹さんの……」
緑を基調とした服で、首を覆う袖がないセーター。
口が大きく開いた袖をまじまじと眺め、さっそく羽織る。
「ぴったり……」
スカートはウエストを紐で閉める型だ。
「これも……ぴったり」
灰色のベルトが巻かれた帽子を被る。
「着られたか? キツくない?」
まるで、見計らったかのようなタイミングでパウロが入ってきた。
「似合うじゃん、完璧」
「そう……」
「靴、これしかなかった」
パウロが取り出したのは内側が白の布で覆われた緑のヒール。
「入った……」
これもぴったり。
「オーケーだね。じゃ、これ」
渡されたメモ用紙には日本の京都のある住所が書かれていた。
「その薬局にザン・アディって奴が居る。濃い隈をつくって白衣を着ている。そいつが詳しい事を知っているはずだ。何か言われたら『埋もれ木に花咲く』って言ってやれ」
「どうして……こんな情報を私に……」
「一言で言うなら、妹に似ていたからかな」
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