† はじまりの罪――常闇の渦中に(弐)
「……ああ。相変わらず鼻につく気配(におい)だ」
夕陽の赤と、夜に誘(いざな)う黒の織り成す路地――流し見た先に、案の定その虚像はいた。
いや、幻ではない。影のようでいながら、霞の如き身体に浮かぶ無数の眼のような澱みから禍々しいまでの害意を放っている。
「三条。逃げたほうは任せた」
「今のに気づくとは少しは成長したじゃん。そっちは頼むよ。あと、三条じゃなくて隊長」
彼女は、文字通り風を蹴って色白の四肢を宙に躍らせると、瞬く間にどこへともなく消えた。
残された俺は、間合いを測るように黒々しい敵影を睥睨する。
「さて……生まれてきたことを後悔させてやるよ」
左腰に手を伸ばし、得物を半回転させて逆手に構えた。
「デスペルタル――起動」
我が声に呼応するようにして、眩い閃光が迸る。
明滅が収まる頃には、俺の手にあった三十センチほどの半透明な棒は日本刀にしか見えない姿形へと変貌を遂げていた。殺意に反応したのか、忌々しき標的は分裂し、三方から飛びかかってくる。
「フン……ッ!」
振り向きざまに後回し蹴りを直近の相手に浴びせ、遠心力で踵より表出した刃によって両断。反動を利用して距離を広げつつ、銃に似た小火器で迫り来る二体目を撃ち抜く。左手に握った拳銃を右の刀と交差させるようにして柄にはめ込むと、両手持ちに握り変えて、最後の個体も擦れ違いさまに斬り捨てた。
「もういねーみたいだな」
なんだかんだで、現在はあいつが上司なので報告する。
「こっちは片づいたぜ。いつまでお前は暴れてんだよ、馬か」
「はぁ……? 手際良くなったからってなに調子に乗ってんの。もう終わって向かってますぅー!」
「こらこら。さすがに失礼でしょ、馬に」
通信機越しに聞こえる反論に、気の抜けた呟きが割り込んできた。