† 二の罪――我が背負うは罪に染まりし十字架(弐)
「流石は余が応じた者よ。実に愚かで無謀で身の程知らずで救えぬ――故、我が力を以て一片の希望と極大の絶望を与えん。変わりゆく世界を不変の身で生きる咎、背負い続けるが良い」
彼の双眸が紫に輝いたと思うや否や、耳元を舐めるように小ぶりな口が迫る。
「飲み干してみよ――――」
駆け抜けるような悪寒と共に、囁きが脳裏に響いた。
魔王を形づくっていたそれは、溶けるように崩れ、四散してゆく。
「ッあぃ……っ!」
高熱に侵されるかの如く、吹雪に凍えるかの如く、全身を蝕む未知の感覚。熱いような、寒いような、苦しくて、痺れて……しかし、それでいて苦痛と言うよりは――それは、なぜか快感にも似ていた。まるで、ながらく自分がこうなることを望み続けていたかのように陶酔する。
「大丈夫か、緑川くん!」
真っ暗な部屋に通行車のライトが差し込むように、どこからともなく多聞さんの呼びかけが飛び込んできた。
「……ああ、案ずるに及ばぬ。良き夜だ。斯様な日を時空の彼方より待ち望んでいたかの如き心持ちよ」
自分の口から出ているとは思えない答えが紡がれてゆく。
「まあ夜じゃないんだけどねー」
「……信雄、しっかり……!」
冷静な上司の傍ら、あの女は取り乱しているようだ。何故か目が開けられないが、三条が俺を名前で呼ぶのは珍しい。
「きみ……こんなところで飲み干されちゃ――」
「っせーな、飲み干すのは俺だ」
霧が晴れるかのように、むしろ上から塗り潰すようにして、混乱を抑え込んで俺は言い放っていた。
「上等だ……毒を喰らわば皿まで、皿どころか黒幕ごと喰らい尽くしてやるよ。この運命の交差点に導いたヤツが何を考えてっかは知らねーが、俺がまとめて飲み干してやる! 俺が全部――背負ってみせる」
回復してきた視界に、銀色が混じっている。
「聞いてっか、悪魔! 罪を犯した者は俺が殺す。それも罪なら、俺は背負い続ける。それでも殺し続ける。罪を背負いながら、犠牲になった人の分まで戦い続ける。その過程の罪も全て背負ってゆく……! それが――俺の背負う、罪という名の十字架だ」
「ヒュー。いけてるじゃん。見た目のインパクトに負けてないよー」
多聞さんが差し出してきたガラス片に映っている自分(かれ)に、言葉を失った。