† はじまりの罪――常闇の渦中に(肆)
「上への報告はやっとくから休んでいいよ。若い時の苦労は買ってでもしろ、なんて言う大人は押し売りを正当化してるだけさ」
渡された紙に目を落とす。どうもこれは地図のつもりらしい。ただ、矢印が一本だけ引かれていて、汚い字で「地図」と書かれている。
「……元軍人とは思えないファンキーさだこと」
「ま、駅から一本道だから馬でも余裕だよー」
「だから馬じゃない……!」
限りなく投げっぱなしに近い、会話のキャッチボールが始まってしまった。
「他の道を書かねーと、その一本がどこか分からんだろが……だいたいんな物騒な施設がわかりやすいとこにあるわけ――って、ちょっと待て馬女ーっ!」
夜のとばりが下りた街を急ぐ。交差点のスクリーンに映るのは、暴力的な歌詞を叫ぶ色白でひ弱そうなミュージシャン。連中とやり合った後だけに平和ボケっぽく感じてしまうが、嫌いなジャンルではない。情熱だの希望だの、恥ずかしげもなく爽やかに発信する連中よりはマシだ。
そう、綺麗ごとは綺麗ごとに過ぎない。健全な肉体に健全な魂が宿るのなら、犯罪にはしる格闘家もいなくなるだろう。まず、いくら自分を鍛えても、死ぬときは死ぬ。
ああ、兄貴だってキックボクシングの心得があったのに、と思案して俺は足を止めた。
(……あれ、なんで彼は死んだんだ――――)