† はじまりの罪――常闇の渦中に(伍)
そう、綺麗ごとは綺麗ごとに過ぎない。健全な肉体に健全な魂が宿るのなら、犯罪にはしる格闘家もいなくなるだろう。まず、いくら自分を鍛えても、死ぬときは死ぬ。
ああ、兄貴だってキックボクシングの心得があったのに、と思案して俺は足を止めた。
(……あれ、なんで彼は死んだんだ――――)
剣道に勤しんでいた、あの頃が連想される。俺は主将の最有力候補と目されていたが、怪我で出場を逃してからは、やる気がささめ雪の如くどこへともなく消えてしまった。
(そーいや、俺――なんで試合前にケガしたんだっけ……?)
どこを痛めたのか思い出せない。ただ、しばらく寝込んでいた気がする。
そうしている内に、部活へ行きづらくなり、劣化が怖くて悪循環で終わってしまった、という結末ばかりが主張し始め、脳裏(あたま)を塗り潰していった。
「ちょっと、聞いてる? きみは最初から人間を手にかけること……抵抗を感じていなかったの?」
三条の問いかけを受け、俺は記憶の扉を閉じる。
「人間を殺ったのは数えるほどだが、怪魔(やつら)に操られた時点でそいつは弱いヤツだ。俺と巡り合わなくとも、遠からず喰われてたさ。ただ――どんなに性根が腐ってようと、心が弱かろうと、どれほど醜い姿になろうと、人間には変わんない。俺は忘れねえ。どんな形であれ、この手で奪ってきたものを……命ある限り、忘れねーよ」
「……すごいいいこと言ってるみたいなところ悪いけど、すまし顔で語ってるきみ……今すごいキモいよ」