† 三の罪――死神と演武(ワルツ)を(伍)
(おいおい……マジかよ)
当初はこんな華奢な子が全世界の妖屠でも三本の指に入るなんて想像もできなかったが、構えたときの佇まいで、称号に足る実力者だと実感した。相変わらずボーっとしているように見えて、鎌を手にした彼女は“無貌の死神”という異名に相応しく、一切の隙がない。
俺たちを隔てる距離は、およそ十メートル。生唾を飲み込み、呼吸のタイミングを見計らうのだが――――
「ああ、戦士というより処刑人か」
いや、むしろ大鎌を携えた姿と底知れぬ恐ろしさは、文字通り死神のようでもある。それぐらい、この相手には起伏というものが存在しなかった。
これでは、みつきがいつ動くかも――――
「ッ……お!?」
鎌鼬が起こるように、何かが真横を駆け抜けていった。そう知覚したときには、俺の襟は裂け、正対していた少女は消えている。
(なんだ今の!? 速さも尋常じゃねーが、地面を蹴るそぶりが全くなかった…………)
背後に向き直ると、今まで通り、無機質な表情のみつきがいた。着衣の一つに至るまで乱れがないことから確信する。やはり、彼女は俺の側を通過しただけだ。魔力で得物を補強して、スピード任せに当てるだけ。それだけのシンプルな戦い方ながら、ここまで速いと常に相手を守勢へ回らせられるわけか。
風圧だけでダメージとなり得る俊足は驚異的だが、逆にあの勢いで接触すれば、自身もただでは済まないはず――――
(つまり、当てれば勝てる……!)
とはいえ一撃離脱戦法のみつきだけに、彼女が近づくのは瞬時のみ。
(……ならば――――)
突っ込むと見せかけ、剣を投げつけた刹那に、銃を構えつつ横滑りして回り込む。
魔力の出し惜しみはしない。こちらが全力である以上、彼女ほどの達人が見逃すことはないはずだ。
「く……ッ!」
銃を払い飛ばされる。それでいい。どうせ見切れないのなら、的を絞らせるまで――速度は凄まじいが、単発の攻撃を逆手にとってやろう。
通り抜けてゆく後頭部に、裏拳でも入れ――――
「な……!?」
まさに絶速。