† 五の罪――運命(さだめ)との対峙(参)
「きみ……変わったね。ここに来たときは、もっと片意地なかんじだった。正義はなにか見出せなくとも、自分の納得いかないことには挑まずにいられないような」
一緒に食器を片づけていると、三条が話を振ってきた。
「今でも大して変わんねーよ。そもそも、正義の味方ってよく言うけど、その正義って誰のことなんだろな」
彼女は掴んだままの皿に目を落とす。
「わからない……ただ、ぼくは恩人に救われたとき、ぼくが彼みたいに強ければ他の人たちもたすかったんだって思って、戦いを教えてもらうことにしたよ」
「親代わりだったっつー人か。俺もあんたらと出会った日、似たようなこと考えて一緒に行くって決めた。こんな世界があるなんて思ってもなかったし、いきなりのことで驚いたが、意味があんなら進むしかねーって。これが運命なら、俺は剣で切り開いてやるって。そう、誓ったんだ」
「きみのそういうとこは最初からすごかったね。ぼくはいまだにわからない……あの人の目には、なにが映っているのか。その目指す先にはなにがあるのか――――」
俯く三条のまなざしは、手元に注がれているようで、視ているのは遥か彼方だった。
† † † † † † †
「……美味い。酒が美味い日は、いい風が吹く」
闇夜にコートを靡かせ、これまで世界に存在した千数百名の妖屠で史上最強と呼ばれる男が、ブーツの音と共に、凍てつく外階段を上ってゆく。
「これまでは眼前の脅威を排除することに身を捧げてきたが、それでは救える者も救いきれん。排除するべき敵が巨大すぎて見えなかったのだな」
人々はこの漆黒に包まれた世界を見て、その暗さに怯えるばかり。誰が太陽を隠しているか、については向き合おうとしない。
「お前はかつて、なぜ強くあり続けるのかと言ったが、単純だ。理想を実現するには、現実を変えねばならないが、それに必要なのは力。創るのも壊すのも、強者にのみ許された権利だ。その為に、俺は――誰よりも強くなってみせよう」
ビルの屋上へと到った彼は、一面に控える者たちを一瞥し、紫煙を吐き出した。
次に、眼下に広がる夜明けの来ない世界を見渡すと、おもむろに告げる。
「バスティーユ監獄の襲撃が革命への第一歩だった。確かに、バカと犯罪者は使いようだ」
† † † † † † †
ドアが開ききるより早く、多聞さんが駆け込んできた。
「みんな、起きてるか!?」
「おっ、たもんまる!」
こたつから上体を起こした拍子に、ベルゼブブがせんべいのカゴをぶちまける。
「まったく、どこに行っておったのだー」
召喚者よりも先になついたのか、惨状に構わず歓喜の声を上げていたが、迎えに這い出ようとして、やっと落ちたせんべいに気づいたようだ。
「多聞さん、今日は戻らないんじゃなかったんすか?」
食べようとする彼女を片手で押さえつけながら、犠牲者たちを拾い集めつつ質問する。
「茅原くんが……武力クーデターをやらかした」
愕然と立ち尽くす三条。
「あの首席妖屠が…………」
「ま、とりあえず支部行こうぜ」
「いや、集まる時間も惜しいから現地で合流だってさ。くわしくは車の中で話すよ」
多聞さんにうながされるまま、固まったままの三条を引っ張って乗り込む。
「優秀な軍人だった茅原くんがたった数十人で挙兵なんて、なにかしら考えてのことだろうし、東京湾に多くの怪魔の反応があるとも聞いた。まあ陸路は陸軍とヘルシャフトが構えてるから、僕らはお台場に展開して沿岸で迎え撃つ」
南へとひた走る車で、銃のチェックを行いながら多聞さんの説明に耳を傾けるが、こんな事態なのに対応の早さが気になった。
政府の指揮下にある軍や林原正俊なんかと、各国の承認と協力を得てるとはいえ、俺たち民間組織が連携して動いているのも違和感がある。あたかも、乱が発生することを知っていたかのような――――