† 七の罪――劫火、日輪をも灼き尽くし(肆)
「……もう追いつくとは、流石だな」
流れるようにビルの屋上を跳びながら、背後の気配に茅原が呼びかける。
「お戯れを。名残惜しさがその走りを遅めているのではなくて?」
横につき、妖艶に微笑んで顔を覗き込む柚木。
「もっとも――お前がその気になっていれば、どのみち既に鬼遊びは終わっていたさ」
「……お試しになりますか?」
「フン、人生で会えるとも思っていなかった化け物とやり合った後だ。体を労わるとするわ」
並走する彼女を気にも留めない。
「まだまだ余裕があるように見受けられましたけど?」
「それは奴も同じだろう。それとも、俺の暴れっぷりに文句があるとでも?」
「滅相もない。十分な戦いをなさりましたよ。そう……十分すぎるぐらいに、ね」
淫靡な目つきで革命者を流し見ると、柚木は正面に広がる地平線へと視線を移した。
† † † † † † †
「しっかし不思議だな。こんだけの力を持った連中を何百人も使ってたら、誰かしら反乱を起こしてもおかしくねーと思うが……さすがに上も妖屠の弱点ぐらいご存知なんすかね」
いつだろう。こんなことを多聞さんに聞いたっけ。
「さあねー。ま、対策してないってなら、たとえ盾つかれても潰せるだけの力をお上も持ってるってことだろうさ」
彼は気怠そうに、ライターを取り出した。
「誰も勝てなかったか、それとも、挑まなかったのか――――」
「すくなくとも、僕の知る限りそんなバカげたことする人はいなかったなー」
咥えかけた煙草を遠ざけ、おもむろに多聞さんは続ける。
「……信雄。お前は死に急ぐなよ」
そう口にした彼の背中は相変わらず大きく、それでいて、どことなく哀しさを湛えているようだった。
「心配ご無用。奪ってきた命の分まで生きるなんて殊勝な心がけはしてねーけど、俺しぶといんで! そうそうくたばりゃしませんって」
俺の返事を聞いた多聞さんが、どう言ったかは思い出せない。
ただ、ほっとしたような顔をしていた気がする。
(――そうだ。俺は……生き続けてやるよ)