† 八の罪――剣戟の果てに(弌)
俺が瞼を開けると、サンタの格好をしたルシファーと目が合った。
もう少し寝ていたほうが良かったかもしれない。
「メリクリ」
こんなに涼しい声のメリクリを耳にしたのは初めてだ。
「……なんで悪魔がイエスの生誕を祝ってんだよ。あんたサンタっつーかサタンだろ」
「地獄に於いてもやっていたぞ。娘がプレゼントを心待ちにしておる故な」
「既婚者でその性格かよ。つーか、あんた外に出てこられるようになったんだ」
「きみが力尽きたあと、ルシファーさんが代わりに戦ってくれてたんだよ」
上体を起こすと、ベッドに腰かけている三条が目に入ってきた。
「そいつは有り難い。で、今ここにいるっつーことは勝ったんだよな!?」
「如何に――」
「好意的に見ても、判定勝ちかな。ルシファーさんが奥義を発動しようってところで横槍が入りそうになって中断したけど、おたがいダメージは少なかったし、茅原さんは余力をまだ残している感じだった」
ルシファーの返答を遮り、三条が説明してしまう。
「まあ悔しいけど、俺との対決はボーナスゲームだったんだろ。ウォーミングアップ代わりにボコボコに叩き潰されるとは、我ながら情けねーなあ」
「いや、味方が全員やられた時点でいったん退いて待つべきだったんだよ。人間が戦える相手じゃないことぐらいわかってるでしょ!」
真っ赤な顔で向き直って、喚き散らす彼女。
「……ごめん、けが人に怒鳴ったりして。ほんとーにきみが無茶して怪我するのは昔から変わらないね。そして、そうなったらだれにも止められないことも――」
「ん? 昔って、俺ここに入って一年もたってねーだろ」
今度は急にしゅんとしてみたり、今日の三条は何かおかしい。
「そっ……それはともかく! いちおう乱は明け方までに鎮圧されたよ。関係者はほとんどが死亡、または逮捕されてる。かんじんの茅原さんは行方不明だけど、怪魔も指揮者がおとなしくなったから落ちついたって。あの群れを操っていたのは、前にベルゼブブの言ってたなんとか四天王のベリアルって悪魔だったんだ。たいへんだったんだから」
「ああ、あの気味悪い結界はそいつのせいだったっつーわけね。まーた厄介なのが出てきやがったな。ルシファーの本体は地獄で氷づけになってんだろ? そいつも何らかの召喚者がいて、現世(こっち)にコピーが呼び出されてるっつーことか」
「いや、魔力をたくわえたあやつの結界内とはいえ、吾輩と渡り合うまねはまがい物なぞにはふきゃのうじゃ」
不慣れな長文で噛みそうになりながらも、ベルゼブブが太ももに乗っかりつつ教えてくれる。身を乗り出しただけのつもりなのだろうけど、うちの隊長が黙ったまま横目で睨んで来たので、早めに降りていただきたい。
「そっちも痛み分けかー。あ、そうそう! ベリアルって、俺でも聞いたことぐらいあるぜ。ソロモン七十二柱の代表格だっけか……確か、壺と指環があれば存在を留めとける、みたいな感じじゃなかったっけ? にしても、いったい誰が用意したんだ……? 上の目を盗んで最強クラス二匹も飼ってる俺らが言うのもアレだが」
「それについてなんだけど――――」
気まずそうに、三条が切り出した。
「悪魔契約の禁を犯した日本支部三条班の妖屠二名は、デスペルタル不携行の上、喜多村多聞と合流し、ただちに本部へ出頭せよって……」
「やっぱバレちまったか。しっかし、なんでまたいきなりローマ? あの戦いを目撃したのは多聞さんと柚ねえだけなんだろ。あの人たちが密告するとは思えないし――」
「茅原さんもこそくなやり方するような人ではなさそう」
「確かに、んなもん材料として利用するようなタイプには見えなかったし、戦いを楽しんでるってぐらいだったから、再戦を望むんなら俺らの自由奪うようなことはしねーだろ。つまり、考えられるなら一つ。ベリアルの契約者が組織内にいるっつーわけか」