† 八の罪――剣戟の果てに(伍)
ハッとしたように、この男に見入る犯人。
「勘違いなさらぬよう。私は貴殿の行いそのものを非難している訳ではない。ただ、貴殿程の力があれば成功させることもできたがゆえに、憂いでいるだけのこと」
「……君なら勝算があると……?」
「そうさな――貴殿程の味方がいれば、の話になるが」
「お前……何者だ?」
「しがない外交官だ――――」
そう返すと、彼は声を落とし、付け加える。
「……アダマースという組織に顔がきく、というだけのな」
「ア、アダマース……!?」
満足気に首肯して、おもむろに歩み寄る青年。
「そこなら政府も手が出せない。これ程の大事をしでかして揉み消せるような社会ではないことぐらい、お分かりであろう? 駆け込み寺も選ばねばな。世間を欺いて生きるとあらば、裏組織以上に適した隠れ蓑は無い。なにせ、とある軍人が戦地に赴く折、自らが敵兵になすであろう所業が耳に入らぬよう、保護していた少女の預け先に選んだのだとかな。確か、三条桜花といったか。アダマース入りすれば、彼女との再会も果たせよう」
あれほど緊張感に包まれていた人質たちが、彼ら二人を残して、眠りに落ちてゆく。
「次は共に変えてやろうではないか。貴殿が与して下さるというのであれば、今回の件、上手く収拾をつけよう」
若き外交官は、銃を押し退けると、不敵な笑みと共に右手を差し出した。
「……やっとわかったよ、あの日の外交官さん」
屍の山を背に、返り血で染まった高機動三輪に乗り込む中年男。
「真に倒すべき敵は、近すぎて見えていなかったんだねえ――――」
そう呟いて愛機を始動させると、彼は来た道を遡って疾走(はし)り出した。
† † † † † † †
気づかれるようでは、刺客として二流。
つまり、多聞さんが足止めした連中とは別に、本命が――――
「お出ましか」
小高い丘の上に、大鎌を携えた少女を頂点とし、十数人の人影が並んでいた。
「北畠みつき…………」
緊張が混じっている三条の息。
「きみは彼女と戦ったことがあるよね。雑魚は引き受けるから、みつきをなんとかして」
とんでもないことを勝手に言ってくれる。
俺は深呼吸をすると駆け出し、
「いや、その必要はねーよ」
天高く跳躍した。
「まとめて突破する」
剣に竜巻を纏わせ、上空から一薙ぎで大半を吹き飛ばす。茅原がやっていた技だが、ルシファーと一体化しているからか、見真似でそれっぽいのは出せたようだ。
「寝過ぎちゃったみたいだわ。ちょっとウォーミングアップに付き合ってくれよ」
着地すると間髪入れず、生き延びた数人が襲いかかってきた。残らず蹴散らす。みつきとの攻防にこいつらが割り込めるとは思えないが、彼女に挑むからには、どんなに小さな懸念でも取り除いておきたかった。
「どうした? 俺らを殺しにきたんじゃなかったか?」
遅い。茅原の後だと、止まって見える。
みつきは一歩も動くことなく眺めていたが、同僚が全滅したのを見届けると、デスペルタルを起動させ、大鎌を成した。
「よう。また踊ってくれるとは照れるぜ」
模擬戦のときと同じように、約十メートルを挟んで相対する二人。
ただ、あの日と違うのは――どちらかが死なねばならないということだった。