† はじまりの罪――常闇の渦中に(漆)
コンクリート造りで二百坪近いものの、地元の人間が住んでます、と言わんばかりに生活感が漂う。
「青梅郊外のアジトは地主の邸宅に偽装してるって聞いたことがある……地図の縮尺はめちゃくちゃだけど、さっきの戦闘車といい、あるとしたら絶対この辺」
こいつは何を根拠にもって、こんな確信を得たような面で言い張るのか。
「絶対と言うヤツを、俺は絶対に信用しな――」
「ビンゴ」
ふと発せられた言葉に飛び退くと、すらりとした端正な容姿の女性が立っていた。
「柚ねえ、気配もなしに間合いに入るのやめてもらえます……?」
三条が半笑いで向き直った相手は大庭柚木。アダマース日本支部のエージェントで、チーム多聞丸をサポートしている。
「にしても、人払いの結界も張ってないとは……ずいぶん自信があんすねー」
「外から見ると三階建て。地下にも二階ある。何があるかは……内緒」
物憂げな表情のまま、億劫なのかノリノリなのか判別しにくいトーンで告げる彼女。
(……ほんと優秀で美人だけど、掴みどころのなさは多聞さんと一二を争うな、この人)
困惑している俺たちに構わず、柚ねえは無言で建物の中へと入ってゆく。
「まるで自分ん家みてーだな」
「考えたらダメだよ、こういう人は」
珍しく三条と顔を見合わせ、困った同僚を追った。
「じゃ、多聞さんが来るまでは休憩。ぼくシャワー浴びてくるから」
「おう」
座ったまま、挨拶代わりに軽く手を上げる。
(……目視だが、Dはかたい――――)
「よし」
気を引き締め、俺は立ち上がった。三条桜花の鍛えられた肢体は、引き締まっていながらも、女性らしい柔らかさも共存するという、一歩間違えれば台なしの絶妙なバランスを実現させている。
が、直後。
「あ、犯罪みっけ」
沈殿しているかのようで浮遊しているような呟きに、我が歩みは止められた。
「え、いや……まだ何もして――」
「じゃあ何かするつもりだった、と」
いつも気怠そうにボソボソと喋るが、声質は澄み渡っている柚ねえだけに、冷ややかなまなざしと相まって我が良心を揺さぶる。
「……弁護士を呼んでくれ」
「あたしよりおーちゃんの巨乳が見たいそうです、弁護士さん」
「先に帰っていいと言ったが、覗いてもいいとは言ってないよねー。さすがにおじさんもそりゃマズいと思うよ、犯罪だし」