† はじまりの罪――常闇の渦中に(捌)
「……弁護士を呼んでくれ」
「あたしよりおーちゃんの巨乳が見たいそうです、弁護士さん」
「先に帰っていいと言ったが、覗いてもいいとは言ってないよねー。さすがにおじさんもそりゃマズいと思うよ、犯罪だし」
喜多村多聞。いつの間に入ってきたのか、この大男まで白々しく肩をすぼめてみせる。
「だって見たいか見たくないかで言ったら見たいでしょ! 見る分にはタダだもんな。そう、脳内のフィルムに焼き付ける分には罪に問えねえ」
「いや現行犯はアウトだからね。ま、今のうちにリラックスしときな。明日は生天目筆頭執政官さまの護衛に直で行く。基地に帰れるのはまだまだ先だよ」
「あー、そうでしたね。ったく、そういうのやる奴らいるだろ…………」
「怪魔がこわいのかもー。んじゃ、あたし報告に戻るんで」
手短に伝えると、何事もなかったかのように柚ねえは立ち去った。
「久々の現場で堅苦しい任務とは僕もついてないなー。ま、顔を売っとくに越したことはないよ。ペンは剣より強し、コネはペンより強しってね」
「売れる顔にしとくためにも今日はもう寝ますわ」
何だろう、割と手早く済んだ任務だったのに、普段より疲れた気がしてならない。
† † † † † † †
夜も更け、道行く人は続々と駅へ吸い込まれてゆく。
「じゃあ牟田口くん、うちらあっちの線だから。遅くなっちゃったし気を付けて」
「そんじゃ、おやすみー。おまえも早くいい女見つけろよーっ!」
改札前に展開されていた三角形が崩れ、一辺を成していた男女一組が遠ざかってゆくのを、残った一点の青年は見送った。
「……んだよ、三人の間に隠し事はないんじゃなかったのかよ。いやまあ、あいつらが付き合ってたことぐらい気づいてたけどさ」
段々と小さくなる彼らは手をつなぎ、別会社の改札に向かうことなく、繁華街へ消える。
(あいつら……俺を見下してやがったんだ! 今頃どうせ俺が空気読めない邪魔者だなんて話してるんだろ。いや、二人の世界でイチャイチャするのに夢中だもんな。他のことなんて考えてもないか)
「――――納得いきませんよね? 同じような無念を抱えている人間は多い。もっとも、ここで負け惜しみを言っているだけでは何も変わりませんが」
柔和な声と異様な気配に男は目を見開いたが、それ以上に驚くものが背後にいた。