† 十二の罪――存在(たましい)滅(ころ)す刃(参)
「ま、今のうちにあんたは休んどけよ。ちょっくら放尿してくるわ」
退屈そうにしている林原に目配せで合図し、場を後にする。
「信雄――――」
彼と共に数歩ほど進んだところで、ふと呼び止められた。
「……ありがとうね」
半面ほど振り向くと、三条が柔らかな微笑みを浮かべている。
「冷めねーうちに食え」
皿を指さして言い残し、俺は苦笑いを隠すように立ち去った。
† † † † † † †
「まったく、なんで食事中にトイレの話なんかするかなー」
眠りに落ちたベルゼブブを尻目に、彼女はスプーンを手に取る。
「まったく…………」
カレーを口に運びながら、少女は鼻をすすった。
「おかしいな。きみのカレーもっと辛かったじゃん――なんで……なんで今日はこんなにしょっぱいんだろう」
幾度すすっても、すすっても、それは止まることを知らない。
「そっか、このしょっぱさも、生きてるってことなんだね――――」
そう噛み締めるように、泣きながら頬張る桜花は、彼の消えていった方角を眺めて頷いた。
「なんだ、多聞丸、死んじゃったか。地獄大公もとんだ肩すかしだったねー。やっぱキミを護れるのはボクだけか」
包帯の男一人が残った部屋に、姿を現したのは茅原知盛。しかし、その口調は、本当の少年とも聞き違えるような、軽やかさを伴っている。
「意外と遅かったな。さすがの貴殿でも、此度ばかりは易くないと思ったが、要らん危惧であったか」
「なんだよ、キミがボクを過小評価するとはね。ちょっと今の国防力をじっくり見てみただけだって。てゆーかさー、そのかた苦しいしゃべり方、二人っきりのときぐらいやめよって言ったじゃんー。昔みたいに登輝って呼んでくれていいのに……まあキミはボクと違って、もうけっこーいい歳だもんね」
朗々と語りかけて歩み寄ると、彼は半透明の電子チップを差し出す。
「……後悔、しているのか?」
受け取りつつ、その隻眼で垣間見る象山。