† 十六の罪――父の手(肆)
「他に誰がいんだよ――いや、まだいるっちゃいるか。最終兵器が」
「まさか……ちょっと、信雄!」
踏み出した桜花を、彼は目で制する。
「どっかの誰かさんがそこの蝿っ子を見せちゃってるし、組織もなくなったってのに、今更もう隠すこともねーよ。ほら、あんたも窮屈だろ? いい加減エコノミークラス症候群になっちまうって」
「ご主人さまに会えるのか……!?」
信雄の提案に、ベルゼブブが瞳を輝かせた。
(……なれど、余の助力を失ったお前が死せば、元も子も無きこと)
宿主の内側から、ルシファーは問い返す。
「いつまでもあんたに頼りっきりっつーわけにもいかねーさ……それに、あの男とやり合うんだからよ。持てる戦力は出せるだけ出して挑むに越したことねー相手だ」
「彼の正体、わかったの……?」
ハッとして、口を挟む桜花。
「いや、ハッキリとは掴めたわけじゃねーけどよ。ただ、なんでか無性に嫌なんだわ。理屈では説明できねーけど、あいつの瞳を見てると、底なしの闇にのぞき込まれているみたいで気味悪ぃ。あの声を聞いてると、耳ん中に呪いでも流し込まれるかのようで鬱陶しい。でも、嫌悪とは違う……どこか哀しい感じがして――いたたまれないんだ」
少年の視線は、どこまでも彼方へと見渡してゆく。
「……不老不死の先に何があるのか、お前は目にした訳ではなかろう」
象山も負けじと、友を見据え返した。
「だからなおさら止めるさ。キミは人間じゃなくちゃだめだよ。人として、人の上に立つんだ」
物腰こそ柔らかだが、茅原も退く気配はない。
「そうは言えど、誰かがせねば道(みらい)は拓け――」
「わかったよ――――」
彼は僅かに微笑みを浮かべると、
「ボクがキミの永遠になろう」
真剣な面持ちで、そう続けた。
「……馬鹿を言え。登輝に背負わせる訳にはいかない! これは人類の前途に耐えかねた私が自ら挑むこと。我が術を受けるのはこの身一つで十分だ」
「キミの夢はボクの夢だからね。絶対に大丈夫だって! キミも自信があってのことだろう? キミの腕をだれよりも知っていると、ボクも自信があるもんでね」
「絶対と口にする者を、私は絶対に信用しない…………」
弱り果て、目を逸らす象山。
「キミは疑り深い上にがんこだからなー。外交官らしいっちゃらしいけどね。でもさ、友達との約束ぐらいは信じてくれてもいいじゃんか」