† 十七の罪――ともだち(弌)
俺たちは地獄コンビに先導され、郊外へと出ばっていた。
「三鷹か。中高生の頃、チャリで通った道だわ」
都心での生活ですり減っているからか、こうして畑が点々と続く風景を見ると安心する。
「……象山たちが布陣した墨田区と真逆なんだけど、ほんとーに合ってるの?」
やはり三条(こいつ)が喋るとろくなことがない。でも俺が注意するのは怖いので、不安気な言動が部下にも波及して士気の低下を導く、ということをルシファーあたり言ってくれないだろうか。
「あ、あにゃどるなッ! この無礼者めらが。吾輩はともかく、ご主人さままでまちがうはずないじゃろう」
「あんたは間違うかもしんねーんだ」
「案ずるに及ばず。此の先で相違無い。何より、此の尋常ならざる殺気は、主として我が身に向けられしもの――誘ったは敵方よ」
少なくとも、茅原(あいつ)が待ち受けているとは、わざわざ遥々ここを舞台に選ぶ意味があるはずだ。いずれは避けられない相手なんだし、手がかりもあるだろう。
「聞いたか! ご主人さまもこの地――」
「そーいや、なんであんたはそんなにこいつのこと慕ってんだ?」
ルシファーが咳払いして、距離を開けた。意外とシャイ・ボーイなのかもしれない。
「……吾輩は天使でありながら、翼が二枚しかもたずに生まれてな。天界ではハエだなんだとさげすまれとった。だが、ご主人さまが武功をくまれ、翼の数など関係ないと、六枚以上の翼を有する者にかぎられていた熾天使にしてくださったのじゃ」
ゆっくりと、幸せを噛みしめるように語るベルゼブブ。
「ご主人さまはちゃんと見ててくれる。戻ってきたらほめてくださる。だから吾輩もがんばれた……! どんなに苦しくとも、かならず生きてかえろうとたたかってこられた――――」
三条は面白くなさそうにむくれている。薄情なヤツだ。
「ふーん、ぼくにはげまされてもがんばれないっていうの?」
「とっ、友の期待にこたえるのは当然じゃろう! ぬぬぬいきなりなにを申すかと思えば…………」
ベルゼブブの答えに、尋ねた彼女も赤面して狼狽える。
「えっ――いや、まあ……そ、そうだよねー。うん」
ルシファーも心なしか嬉しそうだ。最近は、こいつ変化に乏しすぎる表情も見分けられるようになってきた気がする。
「……で、いい加減にこっちじゃないと思うんだけど」
まだ疑っているのか。まったく、今更なんで蒸し返すかな……って――――
「なんだここ……野菜の、流通センター?」
悪魔たちは、巨大な倉庫に面した駐車場で立ち止まっている。
「いやいやいや、さすがにこれはねーだろ」
「ほら言ったじゃんー! なに、てのひら返しですか」
「まあまあ隊長。しかし、完全に野菜をなにかする場所ですね」
部下たちも困惑を隠せない。
「そうそう、どう見てもおかしいでしょ。だって野菜だよ? ひらがなで、や・さ・い」
瞬間、異常な寒気が奔った。
「って、思うじゃん?」
聞き覚えのある声に、振り向くと――――
「ごきげんよう、元三条班の諸君」
その姿を忘れるはずもない。ミリタリーカラーで身を包んだ男が、煙管を片手に佇んでいた。
「……ち、茅原さ――知盛……っ!」
三条が後退りしながら、デスペルタルに手を伸ばす。
「よう。林原のおっさんはどうした?」
「俺が今ここにいる。それ以上の答えがあるとでも?」
相変わらず気に食わねーヤツだ。
「まあガキの相手をする気は無いさ……来てくれて嬉しいぜ。堕天使」
彼は不敵に嗤って、ルシファーに声をかける。
「フン、往く手の石は蹴り除くが性(さが)故」
「つれないな。せっかく最大限にもてなそうっていうのによ――――」
大袈裟に嘆息をつくと、魔法陣を足下に具現させる茅原。
「なっ……!?」
突如として生じたのは、五臓六腑を揺さぶるほどの地鳴り。
「地震だぞ!」
ベルゼブブが、轟音に後れをとらない大声を上げた。
「言わなくても分かってるっつーの」
一帯は脈動し、土煙が視界を支配する。
そして、眼前が晴れ渡ったとき――――